Encounter 8
「ア…スラ…ン…」
本当に小さな…だが、自分の名前を呼ぶ声が聞こえアスランは声が聞こえた方向に顔を向けた。
そして目線の先に人ごみの影に隠れてしまっているが、鷲色の髪の毛が見えアスランはそれが誰だか確信する。
――自分が会いに来た人物。
――誰よりも大切な大事な存在。
『キラ』
その存在の名を声に出さずに心の中で呟くと、呼応するかのように人ごみの隙間からキラの顔が現れる。
互いの視線が合い瞳の中に相手の姿を映す。
アスランはキラの驚いている顔を見て内心苦笑しながらも、嬉しさに思わず笑みを浮かべる。
一方キラはアスランがいる事と、昔と変わらない笑みを浮かべてくれる事に嬉しさと同時に戸惑いアスランにどんな表情や言葉をかけていいのか全く分からず、思わず目線を横に逸らしてしまう。
(どうしてそんな顔するの?僕は君を裏切ったのに…なんで昔みたいに笑うの!?)
何でか泣きそうな気持ちになり、キラは唇をキツク噛み締める。
目が合った途端、泣く寸前の顔をされて目線を外したキラにアスランは焦る。
久々の再会…自分でも普通じゃないと思いえざるえない再会方法だが、驚くなり、怒る、喜ぶなり反応はある程度予想はしていたが、まさか泣きそうな顔をされてしまうとは思っても見なかったアスランは内心動揺しながらも決して表情に出さず、わざとらしく大きく溜息を吐いて誤魔化す。
「キーラ」
三年前と変わらない、今回のようなキラが良く分からない理由で泣いたり、拗ねたりした時に出すちょっとだけ呆れた声で名前を呼びキラを呼ぶと、床を蹴ってキラの方へと向かうのだった。
アスランの態度と言動に周囲は先程とはあきらかに違う驚きと困惑を浮かべた顔をするが、昔から何をするにもキラが常に自分の行動や思考の最も優先するべき事項だったアスランには、周囲のそんな反応など全く気にせず…否、もはやキラしか見えていなかった。
「キラ」
アスランはAAのクルー達の集まりからキラの腕を引っ張るとそのまま自分の腕の中にキラを引き寄せる。
「ア、アス、ランッ!?」
「キラ〜会いたかったよ」
両腕でしっかりとキラを離さないかのようにギュッときつく抱きしめる。
「アスランっ、いたい…」
あまりにも強く抱きしめられてキラは困ったように言う。
「すまない…つい嬉しくて」
アスランは慌てて腕の力を少し抜。目の前にいるキラに会えた嬉しさと現実だという実感を感じるために力の限りキラを抱きしめていた事に今更ながら気付いた。
「僕に会えて…アスランは嬉しいの?」
キラはアスランの胸に顔を埋めてポツリと思わずこぼす。
「キラどうしてそんな事言うんだ?」
自分の胸に顔を埋め、くぐもった声で呟いたキラの言葉の意味を探る。
「だって…僕は…君の手を…」
小さく震える声で言うキラの言葉に含まれるモノを理解しアスランはキラを抱きしめている右手を背中に持っていき、これ以上言わなくてもいいという思いをこめポンポンと優しく叩く。
「俺は例え何処にいたってキラに会えたら嬉しいよ」
「アス?」
アスランの穏やかな声に、キラはおずおずと顔を上げてアスランを見る。
「やっと見てくれた」
「え?」
アスランと目が合うと、そんな事を言われキラはキョトンとする。
「キラ、ずっと俺と目を合わさなかったの気付いてる?さっきだって、俺が振り向いて目が合ったと思ったらすぐキラ目を逸らすから嫌われたかなとか思ったし」
キラは自分の気持ちでいっぱいでアスランを無視していたわけではなかった事を慌てて弁明する。
「ごめんね、僕アスランの事嫌いなんかじゃないよ!むしろ、大好きだから!ただ、いきなりだからちょっとビックリしてただけで…本当に嫌いなんかじゃないから!」
必死に自分の事を嫌いじゃないと訴えるキラに、アスランは嬉しさに頬が緩むのを止められない。
「キラ〜〜〜っ」
嬉しさのあまりガバッと押し倒す勢いで抱きつくアスランに、キラは抵抗せず頬を赤らめてアスランの腕の中で大人しくしている。
アスランはキラを全身で堪能した事に満足したのか、身体を少し離してキラの華奢な両肩に両手を乗せて少しだけ屈みキラと目線を合わせる。
「俺もキラが一番大好きだよ」
ニッコリと…それはもう見るモノが見たら甘ったるい空気を丸出しの極上の笑みでアスランはキラに告げたのだった。
「何でここで泣くのかな…キラは」
普通は喜ぶところだと思ったんだけど…とアスランは苦笑を浮かべながらキラの頬を流れる雫を指先で拭う。
「え?」
キラはアスランの言っている意味が分からないのか少しだけ首を傾げる。
「気付いてないの?キラ、今泣いてるよ」
ほら…とアスランはキラに濡れている自分の指先を見せる。
「ほ…んとだ」
「折角会えたんだから笑って、ね?」
「…アスラン」
涙を指先で拭いながら、、顔を覗き込んで少しだけ困った顔をして自分をあやすアスランの姿は昔のままで、キラは今まで溜め込んでいた緊張が解けたの更にボロボロと涙を流し始める。
「あぁ、もう、そこでまた泣かないの!」
「だっ…、とまっ…な…っよ…」
しゃくり上げながら「止まらない」とつっかえつっかえにキラは言う。
「キーラ、もう涙止めようね」
アスランは幼子をあやすかのように話ながらキラの両頬を手で包みこむと、目元に唇を落とし涙を拭う。
キラの涙が止まるまでアスランは何度もキラの両目に唇を落とす。
キラも大人しく目を瞑って抵抗所がされるがままの状態だった。
当然のように繰り返される目の前の光景に、突っ込みを入れる事を二人を周りで見ていた者の中に誰一人いなかった。
「やっと止まった」
キラの涙が止まり、アスランはキラの額に最後にチュッとキスをして顔を離す。
「うん…ごめんね」
キラは泣いてごめんという気持ちを込めながら言うとアスランは「悲しくて泣いたわけじゃないんだろう」と返す。
キラは頷き肯定する。そして最も自分が疑問に思った事を口にする。
「ねぇアスラン、どうして?」
「うん?」
「どうして君が…ココに?」
キラは困ったようにアスランを見る。
アスランはザフトだから、もし正体がバレたら大変な事になってしまうとキラは瞳で一生懸命訴える。
「ちょっとシャトルでトラブルがあって、救助信号を出したらたまたまこの船が拾ってくれただけだよ」
アスランはキラの髪を撫でながらも、周りにいる者達にも聞こえるように理由を話す。
勿論、本当はキラに会いたいが為だけに来たがそんな事を言えば面倒な事この上ない。
「でも…」
「あ〜話の邪魔をして悪いが、お前等、周りの状況を少しは気にしろ。取り合えず坊主の知り合いみたいなのは分かったが、ここは軍艦の中なんで事情聴取ってやつを受けて貰わなきゃならないんでね」
どこか納得できないキラの声を掻き消すかのように、フラガが無理矢理会話に割り込み、現状を二人に把握させる。
フラガの声にその場で半ば呆然と二人の遣り取りを見ていたクルー達は一気に我にかえる。
「フラガ大尉の言う通りです。初めまして、アスラン君?私がこのAAの艦長、マリュー・ラミアスです。貴方にはこれから私達と共に来て頂きます。キラ君、貴方も一緒に来て頂戴」
マリューが軽く咳払いをしアスランに挨拶をする。流石は軍人、呆然としていてもしっかりと会話を聞いており、アスランの名前も既に彼女の中に記憶された。
「えっ、あ、はい。…行こう、アスラン」
キラは慌ててマリューに頷くと、目の前にいるアスランの腕を引っ張り、前を行くマリュー、フラガ、ナタルの後について行く。
「あぁ」
アスランはキラに引っ張られるかのように格納庫を後にした。
二人が消えた後、その場にいた全員がとてつもない疲労感に襲われたのだった。
「…にしても、プラント最高議長のお嬢さんの次は国防長官の息子とは恐れ入ったね〜」
フラガは入り口近くの壁に凭(もた)れながら先程まで部屋にいたアスランを思い出し思わず苦笑いを浮かべる。
「えぇ。私も驚いてます」
椅子に座っているマリューもフラガと同じく、困った笑みを浮かべる。
事情聴取という事であの藍髪の少年が「アスラン・ザラ」と名乗ったときにフラガはプラントの国防長官の名前を思い出し、冗談交じりに言ったら「息子です」と普通に返答が返ってきてかなり驚いたのは言うまでも無い。
それは、マリューとナタルも同じだった。
キラだけはどこか不思議そうな顔をしていたが、キラに突っ込む余裕はフラガには無かった。
だが同時に「父は国防長官という立場ですが、自分には権限も力もありません」とアスランに断言された。それはつまり自分を人質に取っても何の意味も無いという事を示している。果たしてそれが本当なのかは自分達にも分からないが、救助した人間を人質に取るという行為はフラガやマリュー、そして軍人気質の強いナタルにも毛頭無かった。
「坊主との関係も『幼馴染』で『親友』というのも凄いけどな…」
先程の遣り取りをみるからに、久しぶりに会えた恋人同士の会話と雰囲気なのだが至って真面目に『大切な親友です』と告げられて、からかう事もできなかった。
「艦長、本当にあの少年を客人として艦に置くのですか?」
今までずっと黙っていたナタルが口を開く。
「えぇ。そのつもりよ。ナタルは反対?」
「いえ、艦長がそうおっしゃるなら私は何も意見はありません」
「貴女個人の意思としては反対…かしら」
マリューの言葉にナタルは素直に頷く。
「プラントの国防委員長は急進派と言われてます。その息子にこの艦の中を見られるというのは自分達の首を絞める事になるかもしれません」
ナタルはハッキリとした口調でマリューとフラガに自分の思いを伝える。
「そうね…。確かに今の国防長官はナチュラルに対してかなり容赦が無いみたいだわ。でも、それだけの理由で彼を客人ではなく捕虜として扱う事もできないわ。なるべくなら部屋の外に出ないで貰う様、言うしかないわね。軍人として甘い意見だとは思うけど」
マリューは小さく微笑しながらナタルを見ると、ナタルは「分かりました」と頷き、クルー達に伝えておきますとだけ言った。
「ナタル、他のみんなには彼の父親の事は…」
「言いません。言って余計な波風が立つのは今の人員不足のこの艦の状態では不利になります」
それだけ言うと、ナタルは部屋から出て行った。
「私は軍人として甘いようね」
マリューの一人呟く。
フラガは壁から身体を離すと、そっとマリューの肩に手をかける。
「少尉だって艦長の気持をきちんと理解しているさ」
自分を見上げるマリューにフラガは軽くウインクを送る。
「フラガ大尉…その年でウインクはどうかと思いますよ」
マリューはフラガの手を払いのけて自分も部屋から出て行く。
「ウインク…やばかったのか?」
一人部屋に残されたフラガは首を捻って真剣に考えるフラガの問いに答える者は誰もいなかった。
コメント
二人にはいつも周囲の目なんて関係ありません。お互いしか見えていない辺りがもう末期。
これで舞台は整った〜次回から昼ドラのような愛と憎しみのメロドラマがスタート(嘘です)まぁあんなに濃い内容は無理ですが、は程々に入れられたらいいな…と計画してます。実行できるかは謎ですが。
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