Encounter 7
アスランとの通信も終わり、一段落ついたラクスの部屋の扉が開かれると、先程までの話題の人物であるキラが食事のトレイを持って入ってきた。
「用事は終わったのですか」
「うん。ストライクの整備は終わったらもう夕食の時間過だって事教えて貰ったんだ。少し遅くなったけど一緒に食べよ」
どこか、元気のないキラにラクスはすぐに気付いたが、キラの無理矢理笑おうとする表情を見て、触れられたくないのだろうと思い何も気付かない振りをする事に決めた。
キラは食堂での諍いがあってから、ラクスの食事を運び二人で食事を取る事が多かった。
ラクスにはキラが気を使ってわざわざ自分と食べてくれる優しさを嬉しく思ったが、気になる事もあった。
「いつも私と一緒にお食事をするのはとても嬉しいのですが、ご友人達と食べなくても宜しいのですか?」
ラクスの何気ない質問にキラは瞬時に身体を強張らせる。
ラクスは自分の失言に気付き「私はキラとの食事がとても楽しいので、できればこの艦にいる間は一緒に食べて頂けませんでしょうか」とさりげなく会話を進める。
「あ、うん。ラクスが嫌じゃなければ」
キラは曖昧な笑みを浮かべる。
「嫌だなんて事ありませんわ。キラとこうして友達になれてとても嬉しいと先程も申しました筈です」
「…ありがとう」
小さくはにかむキラにラクスも微笑みながらも、周囲から黒いオーラが滲み出ていたが、キラは全く気付かずにいた。
「ラクス、お願いがあるんだけど…」
「何ですか」
食事も終わり、トレイを片付けながらキラどこか切実な表情でラクスを見る。
「あの、…ハロを…貸してくれない?」
「ハロですか」
「うん…駄目、かな?」
「よろしいですわ。ただ、明日の朝食の時にお返しして貰いたいのです」
アスランとの通信の為に…と言外に言いラクスは少し困った風な顔でキラに言う。
「有難う。明日の朝に来た時に返すね」
「ピンクちゃんを宜しくお願いします」
こうしてキラはハロをラクスから借り部屋から出て行くのだった。
部屋から出て行く時もハロは相変わらず良く喋り、良く飛び跳ね、キラはそんなハロの後を慌てて追いかけて出て行くのだった。
その夜、キラは自室のベットで一人静かに涙を流す。
「アスラン…」
『キラ、ダイスキダヨ、キラ』
「アスラン…」
トリィがいて初めて動かされるハロの特別なプログラム…キラのためだけにアスランが入れてくれた音声パターンを聞き、キラはハロを両手で抱きしめる。
「トリィごめんね…」
ハロと同じく腕の中にトリィもいる。
「僕が…僕のせいで…」
キラの涙がトリィの頭にポトリと落ちる。
『トリィ』
するとトリィはキラに向かって飛ぼうとするが、左の羽がカチャカチャと音が鳴るだけで羽を広げる事ができなかった。
事の起こりはストライクの整備が終わりった後に起った。
キラがフラガと共に格納庫に行くと、トリィがストライクの肩に止まっているのに気付く。
「トリィ」
キラが呼べば、トリィが『トリィ』と鳴き声を上げながらキラの肩に止まる。
そんなトリィの頭を指先で撫でながらキラは嬉しそうにトリィを見る。
「本当にそのペットロボは坊主が大好きみたいだな」
隣でフラガが苦笑する。
「僕の親友ですから」
「成る程ね」
「お二人さん、とっとと調整を始めてくれ〜!」
整備士達と話していたマードックがフラガとキラに気付き、遠くから声をかける。
二人はマードックに呼ばれ自分達のパートナーの元へ行くのだった。
ストライクのOSの調整が終わったキラはコクピットから出ると、既にフラガはゼロの調整が終わったとの事で先に格納庫を後にしていた事を近くにいた整備士に聞いた。
キラも調整が終わったので、格納庫から出て行く。
「ラクスの所に行こうか。トリィも会いたいよね」
『トリィ』
キラの会話が分かっているかのように見事に相槌を打つトリィにキラは思わず笑顔が浮かんでしまう。
一度食堂により、二人分の飲み物を両手に持ち食堂を後にしたキラは廊下で民間人の数人の男性達のグループと出くわす。
彼らはキラを見ると一瞬に不機嫌そうな顔つきになる。
おそらく、キラがコーディネイターのパイロットだという事を知っているのだろう。
民間人の中にはナチュラルがどうしても多く、コーディネイターに対する風当たりは強かった。
何よりヘリオポリスを壊滅したのがコーディネイターであるという事がニュースになり、彼らはキラを忌み嫌った。
「こんな所でコーディネイターのパイロットさんと会うとは奇遇だな」
「そうだな。今まで全く会わなかったもんなぁ〜」
「にしても、本当にこんなガキがあんな兵器に乗ってる同胞殺しとはねぇ」
「――っつ」
あきらかな嘲笑と共に言われた言葉にキラはショックの色を隠ず、思わず俯いてしまう。
「まぁ、こっちはアンタがどんどんと仲間を殺してくれるから大助かりだけど」
「そうだぜ、アンタにはこれからも守って貰わないとな。民間人である俺達のためにも」
男達の一人がキラの左肩に手を置こうとした途端、今まで大人しく反対側の肩に乗っていたトリィがキラの肩から飛び降り、伸ばされた男の手の甲を唇で突く。
「イテッ…何だよコイツ!」
「トリィ!」
キラは慌ててトリィを抱きしめようとするが、それよりも早く男がトリィの左側の羽を反対側の手で掴むと、パキッと音がトリィの羽の部分から鳴る。
男が手を離すと、トリィがそのまま床に落下するのをキラは慌てて両手でキャッチする。
「トリィ、トリィ!」
左側の羽が上下に動こうとするが、羽の接続部分を壊されたのかトリィの左羽は小さく痙攣するかの様な動きを繰り返していた。
「俺に逆らうからこうなるんだ。ロボットのくせに人間様に逆らうから自業自得だってーの。おい、行こうぜ」
男たちは一気に興味が無くなったのか、キラの横を通り過ぎ食堂へと向かっていく。
男達の気配が完全に廊下から消えた後、キラはトリィの羽を慎重にしまい、両手で抱きしめながら自室に向かう。
廊下には会いに行く人と飲むはずだったドリンクが転がっているが、キラの頭にはそんな事は抜け落ち、自室に急いで向かうのだった。
自室へ戻り、机の上にトリィを置き電池を切る。
幸い羽の部分は破損は無かったが、丁度羽を広げる為の枝の部分と胴体の接触部分が壊されてしまい正常に動かなくなっている事がキラには分かった。
だが、ここにはトリィのパーツなど全くないのだ。それに自分はマイクロユニットが大の苦手で、直せる…作った相手はあまりにも遠くて、会うこともできない。
キラにとって今はいない親友の代わりがトリィだった。
トリィのあまりの姿にキラの瞳から涙が流れる。
「ごめんね…ごめんね、トリィ」
僕が守ってあげられなくて…。
「ごめん…アスラン」
君が僕の為に作ってくれたのに…。
暫く泣いた後、夕食の時刻という事に気付いたキラは慌てて顔を洗い、ラクスの部屋へと向かうのだった。
食堂は時間がずれていたのか民間人の姿は無かった。そして、あのラクスの件があってから、会う度にどこか自分に対して一歩引いた風に思える友人達の姿もなく、キラは安堵したのだった。
「僕はどうしたらいいのだろう…」
暗い部屋でキラは涙を流しながら、手の中にある大切な幼馴染の温もりの変わりに彼の作った作品を抱きしめる。
もう、昔の…月にいた頃に戻る事はできない。彼の手を振り切ったのは自分。本当は甘える事さえ許されない立場だけど…せめて今だけは許して欲しい。
「アス…ラ…ン……」
新たな涙を一滴流しキラは眠りへとついた。
翌日、AAの艦内に微かな動揺があった。
「艦長どうしますか?一応救難信号を出していますが」
ノイマンがマリューの方に振り向く。
「どうするも、相手は救助信号を出している以上、見捨てる訳にはいかないでしょ」
マリューは当り前のように言う。
「しかし、艦長。こんな所に一人用シャトルがいるとは…何か引っ掛かります」
ナタルが目の前のモニターに移るシャトルを訝しげに見る。
「それはあくまで仮定でしょう。もし本当に救助を求めているのだとしたら、私達は目の前の命を見捨てる事になるのよ。軍人として、救助を求める者を助けないというのはどうかと思うわ」
マリューの強い口調にナタルは何も言えなくなる。
「これよりAAは目の前にある、シャトルの回収作業にかかります。但し警戒はするに越したことはないわ。皆でお出迎えかしら」
マリューの言葉に含むものを感じ、ブリッジクルー達は皆顔を引き締めて頷くのだった。
格納庫には手の空いているAAクルー達が集まり、回収された一人用シャトルの周りに集まる。
「しかし、一人用シャトルなんかに乗ってるなんてスゲー金持ちだよな」
「そうよな…特に軍のマークも無いし、民間用だな」
トールとサイがシャトルを見て感想を言う。他のクルー達もまさか個人仕様のシャトルを間近に見る事がなかったので、どんな人物が乗っているのか興味津々だった。
「でも明らかに叔父さん、またはお爺さんな気がするわ」
ミリアリアは何所かつまらなそうに言う。
「まぁ…この前の様に女の子っていう確率は低そうだな」
トールはこの後、ミリアリアに足を踏みつけられる。全開のラクスの時と全く変わらない二人の遣り取りに、サイやカズイは笑うが、キラはどこか一歩下がった所で友人達の様子を見ていた。
「おっ、シャトルのコックピットが開いたぞ!」
誰がそう言うと、皆出てきた人物に警戒を表す。
もしかしたら敵かもしれない、何より武器を所持している可能性があるのだ。
ナタル、フラガ、ノイマンの3人が銃を構えるが、コックピットから降りてきた人物を見て周囲は驚く。
「……子供?」
ナタルが確認するかのように呟く。
シャトルのコックピットから出てきたのは、赤いコートを着た、肩よる少し上まで伸ばした藍色の髪に翠の瞳をした大変整った顔立ちをした『少年』だった。
クルー達はまさかシャトルに少年が乗っていた事に驚く。
そんなクルー達の動揺とはまた別の意味で、目の前の人物に対して驚きを隠せない表情で現れた少年を見ている者がいた。
―――アスラン!?
キラは見間違える事などありえない、だけどこの場にいる事の有り得ない人物の登場に驚愕していた。
(どうして彼がココにいるのだろう―――)
会いたいと願っていた。だけど、彼はAAには絶対に来ない人物。
(でも、今僕の目の前にいるのは…)
「ア…スラ…ン…」
キラの声は擦れ、周りにいた者達には聞こえなかった。
だが、アスランだけはキラの声に気付いたかの様にキラの方を向いたのだった。
コメント
5話で次回はギャグとかいいながら、6、7話と全く笑いの取れない話になってしまった…。
それにしても対面するまで長かった…おまけに二人会話してないし。次回、次回こそアスキラ!
そしてキラが一番出ました。トリィごめんよ…でもこのネタどこかで入れなきゃいけなかたので、スッゴイ不自然だけど、私が作ってる辺りから今更不自然な展開なんてこのサイトの日常です(殴)
アスランに甘えるキラが大好きなので、ハロはアスランの身代わりです。抱き枕?ハロの抱き枕あったら欲しいですv
最後に、この話を読んで下さっている方、本当に有難うございます(ペコリ)