together…
あの人は何でも持っている。テニスだって上手いし、勉強だってできる。それに部長と生徒会長という人望や周囲の羨望だってある。
だから時々不安になる。いつかあの人は俺の側からいなくなってしまうかもしれないと…
リョーマはコートの中で何度目かわからない溜息をついた。本人は周りの事に無頓着で気付いてないが、レギュラー陣、特に菊丸と不二の3−6コンビはそんなリョーマの様子を心配そうに見ていた。
「オチビ何かあったのかにゃ?」
「どうしたんだろうね。越前…まぁ原因は予想できるけど」
不二はそう言うといつも通りどこか不機嫌な顔でフェンスの前で腕組みをしながら部員達に注意と指導をしている手塚を見る。
「本当…頭固すぎ」
不二が一人言のようにボソっと呟く。
「なに?不二」
「なんでもないよエージ。僕たちもそろそろ練習しないとコワーイ人にグラウンド走らされちゃうよ」
「そっ、そうだにゃ!練習、練習!!」
二人はそのままコートに入り練習試合をする。結果は不二の圧勝。1セットも取れなかった菊丸は大石に慰めにもらいにいっている。ちなみにその途端側にいた部員達は一歩どころか三歩下がっていた。原因はその後で不二がどす黒いオーラーを放出していたからだったりする。当のゴールデンコンビはそんな事に全く気づいていなかったのだが、周
りは皆早くその場から立ち去りたくて仕方なかった。
一方手塚は相変わらず無表情だが内心は焦っていた。
恋人のリョーマの様子がおかしいのにいち早く気付いていたのだが、部長という役職上公私混同を厳禁と自身の規則に今現在従っているのだった。
今日は珍しくリョーマが朝練に遅刻せずにやってきた事にテニス部一同驚いていたのだった。手塚もその中の一人である。だがリョーマは練習が始まるにつれ溜息の数が増えていくのだ。手塚はリョーマの元に駆け寄りたい心境を必死に堪えていた。
ふと時計をみると朝練の終了時刻を少し回っていた。
「本日の朝練はこれで終わりだ!」
手塚は慌てて(端からみれば変わりないが)コート内にいる部員達に号令をかける。
そして手塚はそのままリョーマの元に歩いていく。
「越前」
手塚が後からリョーマに声をかけるとリョーマの肩がビクっと揺れた。
「あ…部長…」
リョーマは振り返り手塚を見上げる。
「リョー…マ?」
手塚はリョーマの目を見るなり驚く。いつもは勝ち気で意志の強い印象的な瞳が今どこか不安な色に飾られていた。思わず名前の方で読んでしまうが、部員達はコートの中にはいなかった。皆更衣室に向かったらしい。
「どうしたんだ?」
手塚はリョーマの左頬に手を添える。
「…何でもないっ!」
途端リョーマは手塚の手を払いのけそのまま走ってコートから飛び出してしまった。
「リョーマ!?」
手塚は慌ててリョーマの去っていった方を見るが、既にそこにはリョーマの姿は無かった。
「………」
手塚はしばし呆然としながらコートの中で立ちつくしていたが、職員会議の始めるチャイムで我に返る。
そしてそのままコートから去ろうとした時足下に白い帽子が落ちていた。手塚は帽子を広い上げ更衣室に向かっていったのだった。
1時間目の授業が終わり授業準備の休み時間に手塚は机の上で考えていた。
考えの内容は勿論、恋人であるリョーマの事だ。朝練の時何故か手塚の顔を見るなり泣きそうな表情をしたのだ。
手塚は結局あの後更部室に行くが、部室にいたのは鍵の管理人的存在の大石だけだった。
手塚はリョーマ様子を大石に聞くが大石は「急いで着替えて出ていったが…何かあったのか?」と心配気に逆に聞き返されたのだった。
手塚とてリョーマの様子がおかしいので声をかたのだ。そしてあの反応。いつも通り、小生意気な返事や甘えた台詞なら手塚もここまで気にしないのだが朝みたいなリョーマの反応は初めて見るものだった。
「…はぁ」
手塚は机の上に肘を立て顎に手の甲を載せながら溜息をつく。本人は自覚していないが、手塚は朝から(性格にはHRから)溜息をこぼしていた。クラスメイトは遠くから見ているだけだった。
実際手塚と親しく気さくに話しかけてくる友人といえばテニス部の3年レギュラー位だ。なので現在手塚のクラスには彼に気軽に声をかけてくる者はいないのだ。皆が一歩引いた状態で手塚に話しかけるのがざらだった。
手塚が再び溜息をついた瞬間授業開始のチャイムが校内に鳴り響いた。
(やはり…理由を聞くべきか)
2時間目の古文の授業中手塚はノートを取りながらぼんやりとそんなことを考えていた。
頭の中はリョーマの事でいっぱいで今は授業に集中せねばと思っても全く集中できないのだ。
(こんなことは初めてだな)
手塚は内心苦笑していた。いつもはどんな事があっても授業になれば授業に集中できた。それが今では恋人の事で教師の言葉が全く耳から抜けてしまう状態。
(……昼休みに会いに行こう)
手塚はそう決意して今度こそ授業に専念しようと黒板を見るのだった。
昼休み、昼食の弁当を食べ終わったリョーマいつものようには机の上で昼寝をしていた。
「越前君…あの、手塚先輩が呼んでいるんだけど…」
目の前でクラスメイトの一人であるだろう女子がリョーマにおずおずと声をかけてくる。
「……そう」
「おこして…ごめんね」
「別に」
リョーマは相変わらず無表情で少女に返事をするが、少女はリョーマが不機嫌だと勘違いをしてちじこまってしまっていた。
リョーマはそんな少女の姿には気付かず、眠い目を擦りながら教室の後を振り返るとそこには手塚の姿があった。
(どうして?)
リョーマは今日の朝の事を思い出す。
「越前」
手塚がそれほど大きくない声でリョーマを呼ぶがリョーマにはハッキリと聞こえた。そして椅子から立ち上がり手塚の元に歩いていく。
「…何かあったんっスか?」
リョーマは俯きかげんで手塚と目を合わせようとしない。
「あぁ…屋上でいいか?」
手塚が部長の時の声音でリョーマに話す。
「いいっスよ」
リョーマがコクリと頷くと、手塚は屋上に向かって歩いていく。リョーマもその後についていくのだった。
いつもは鍵が閉まっている屋上も今日は空いていたのにリョーマは不思議そうな顔をする。
「会長特権だ」
手塚はそう言うとポケットから屋上の鍵を取り出す。
「それって「ショッケンランヨウ」ってやつ?」
「まぁそうだな」
リョーマの問いに手塚も苦笑しながら答える。
「リョーマ」
ふいに手塚が固い声でリョーマの名を呼ぶ。
「何故俺を避ける?」
手塚は疑問をそのまま伝える。
「…別に避けてなんか…ないけど…」
「なら朝は一体何があったんだ?」
「ちょっと見た夢が嫌なものだったからそれだけっ!」
リョーマはそのまま手塚の横を遮り校舎の中に戻ろうとしたが、手塚に腕を引かれ抱きしめられる。
「ぶちょ…っつ!」
「俺は不安なんだ」
「え!?」
手塚の台詞にリョーマは驚く。
「何で?」
「やっと俺を見たな」
リョーマは顔を伏せようとするが、手塚が両頬を手で挟んでいるためそれは出来なくなってしまった。
「朝からお前は一度も俺を見ないから正直嫌われたのだと思ってたんだ」
「そんなことない!」
リョーマはきっぱりと力強く否定する。
「俺より…部長の方がいつかいなくなっちゃうのかもしれないじゃん」
「何だそれは?」
手塚はリョーマの台詞に眉間を軽く寄せる。
「どういう事か話してくれ」
「え…あの、ね…夢で部長が俺から離れて行くのをここんところ毎日みるから…だから部長はいつか俺の側からいなくなっちゃうって思ったら…ふぇっ〜」
いきなり泣き出すリョーマを手塚は条件反射で抱きしめながら背中をポンポンと優しく叩くきながら溜息をつく。
「リョーマ、俺はいつお前から離れると言ったんだ?」
「…っく、ぅっ……え…と、夢?」
泣きながらリョーマは答えた。
「そう夢だ。現実は違うだろ?俺はお前と離れる気はないぞ!」
キッパリと手塚はそう伝えるとリョーマの顔を覗き込む。
「本当に?」
「本当だ」
「よかった〜」
リョーマは安心したのかニッコリと笑うと手塚の胸に凭れる。
「で…一体どんな夢をお前は見ていたんだ?」
手塚はリョーマを抱き留めながら聞いた。
「あのね…部長がどっか知らない女の人と楽しく話していて…それでそのまま出かけちゃうの。初めは夢だからあんまり考えないようにしてたんだけど、3日間連続で見たら何か不安になって…」
「大丈夫だ。俺はお前が望む時までずっと側にいる」
「じゃぁず〜っと一緒にいてくれるの?」
「リョーマが望むのなら」
「…国光は俺の側にはいたくないの?」
「いたいぞ。俺はお前の側にずっといたいんだ」
「じゃぁず〜っと、ず〜っと側にいてね!俺の恋人でいて」
「勿論だ」
お互い自然に笑みが零れる。リョーマは手塚の制服の胸元をクイクイと引っ張る。
「なんだ?」
「あのね…」
手塚がリョーマの顔を覗き込むと、頬にチュッとキスを送られた。
「一緒にいようね国光!」
「一緒にいようなリョーマ」
今度は手塚がリョーマの頬にチュッとキスを送ると唇にも深い口付けを落としたのだった。
END
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