| タイセツナキモチ
昼休み。いつもと同じようにリョーマは恋人である手塚と一緒に昼食を取るために生徒会室に向かっていた。各クラスの教室や渡り廊下は生徒達の話し声で賑(にぎ)やかだが、恋人の待つ生徒会室のあるフロアだけはその喧騒からはかけはなれていて静まりかえっている。 目当ての生徒会室のドアの前にたどり着くと微かだが、話し声が聞こえた。どうやら中では何か起こっているらしいが、もしかしたら生徒会の打ち合わせかもしれないと思いリョーマは入るのを躊躇する。どうしようかと考えていると、どこか甲高くて悲鳴みたいな女性の声がドア越しに響いた。 「どうしてっ!」 リョーマは生徒会の打ち合わせでは無いことがわかり、ドアを少しだけ開き中を覗く。 『何かイケナイことしてるみたい…』 別に悪いことをしている訳では無いが何となく堂々と入ってはいけないような雰囲気だったから。そう思いながら中を見るとそこにはいつもの会長椅子に座っている手塚と何度か生徒会室で会ったことのある役員の女生徒が手塚の前に立ってた。 「どうして駄目なの?」 「…答える義務はない」 「でも関係なくはないわ」 彼女が自分に背を向けているので表情はわからないが、何処か攻めるような言葉に手塚いつもの感情の無い声で答える。表情は女生徒が前にいるため伺えないが、おそらくはいつもの無表情だろう。 淡々とした口調に役員の少女は少し弱くなった口調で言葉を返している。 リョーマは込み入った感じの内容なのでそっとドアを閉めようとした時− 「あの1年ルーキーが現れてからよ!!」 『!?』 自分の事が話題に出てきてリョーマの動きが止まった。 『俺?』 「越前は関係無いだろ」 手塚の事をよく知っているテニス部のレギュラー陣者なら彼が動揺している事に気付いたが、一般の人間にはほんの少し眉をしかめるだけの、殆ど無表情に近かった。手塚の素っ気ない態度と口調で少女は悔しそうに少し声を震わせる。 「関係無くないでしょ?どうしてアナタみたいな人があんなテニス以外取り柄のない子供を大切にしてるの?」 『!!』 女生徒の言葉がリョーマの胸に突き刺さる。しかし少女はリョーマがそこにいる事など微塵も思ってないのでそのまま話を続けている。 「いい加減にしろ!」 手塚が声を荒げる。 「…すまない。だが俺の事で越前を責めるのは筋違いだ」 謝ってはいるものの、手塚の口調は怒気を含んでいた。 「……あ…の…私こそごめんなさい……」 少女は手塚に怒鳴られ泣きそうな声で謝るとそのまま生徒会室から出ていこうとする。 『ヤバっ!』 リョーマは慌てて屋上階段を上ると少女が泣きながら階段を下りる姿が視界に入る。姿が見えなくなり、リョーマ階段をおりて暫く少女の去った場所を見つめていた。 『テニス以外取り柄がない…か』 確かに手塚は凄い。テニスも全国区に入っているし勉強だって生徒会長になれる程の頭の持ち主だ。それに人望ももの凄く厚いし…自分とは全く違う。考えれば考える程自分と手塚の距離を感じてしまう。そして思う。
ー付き合っているのは本当に彼の為に良いのだろうか?ー
「良いことなワケないじゃん」 ポツリと言葉が勝手に出てしまう。 「何が良いことじゃないんだ?」 「うわぁ」 後からいきなり声を掛けられリョーマは思いきりビクつく。心臓がバクバクいっているのが解る位に驚いた。 「気配消して近づいて来ないでよね!」 ドキドキしている心臓の音がそう言いながら後を振り帰りながら文句を言う。 「俺は不二じゃない。単にお前がボーっとしていただけだろう?」 手塚は中腰になりながらリョーマと目線を合わせる。 「別にボケっと突っ立ってなんかいないよ。チョット考え事してただけっ!」 リョーマは手塚の顔がまともに見れなくて思わず目線を下にそらす。 「だったら何故俺を見ない?」 手塚はリョーマの顎を左手で軽く持ち上げるとそのまま啄むような軽いキスを送る。 「ちょっ!ココ廊下っ!!」 誰かに見られたらどうするの!?と言おうとした矢先に手塚が「誰もここにはいないから平気だ」と平然として言う。 「まぁ話は生徒会室でゆっくり聞こう。」 手塚の言葉にリョーマも頷き2人は生徒会室の中に入っていった。
「でお前はさっきの話を聞いていたんだろう?」 会長用の椅子に手塚は座るとリョーマを向かい合わせる形で自分の膝の上に乗せながら質問をする。 「何で知ってるの!?」 後向きで自分がいることなんて全く気付く様子もなかったのに!?と呟くと手塚は気配で分かったとリョーマに言う。 「ふ〜ん……」 「で、何が良いことないんだ?」 どうやら、先程の事を聞いているらしい。 リョーマは下を向いたまま黙ってしまう。 『だって言ったら俺国光の側にいられなくなっちゃうかも知れないし…』 キュッと唇を噛みしめるリョーマに手塚は軽く溜息をつく。 「頼むからいきなり泣かないでくれ。」 「泣いてなんかないっ」 とはいうもののリョーマの目には大粒の涙が今にも流れそうだ。どうやら自分では知らずのうちに出てきたものらしいが、手塚は困惑する。 「リョーマ」 眉間に皺を寄せて旗から見れば怒っているような表情だが、手塚は内心では困っていた。自分の存在でリョーマの心を傷つけてしまったことに。 「…あの女生徒の言うことならきにするな」 左手で優しく頭を撫でながら手塚はリョーマの背中を軽く抱き寄せる。 「どおして?」 下に向いたままリョーマは手塚の制服の胸元をギュッと握る。 蚊の無くような小さな声だったが手塚の耳にはちゃんと届いた。 「何がどうしてなんだ?」 ポンポンと幼子をあやすように手塚はリョーマの背中を叩くとリョーマは泣き出した。 「だ…って、オレっ…いっ…と、くにみ…っ、めいわく…なる。」 泣いているせいでリョーマの声は嗚咽と混ざり途切れ途切れだが手塚には理解できたが、内容に少々怒りを覚える。 「誰がいつお前の事を迷惑だと言った?」 手塚は左手でリョーマの顎を思いきり引く。 「だって…」 リョーマは涙を流したまま再び視線をそらそうとするが、手塚がそれを阻んだ。 「ちゃんと俺の方を見ろ」 有無を言わさない口調でリョーマに言う。リョーマもビクッと身体を一瞬硬直させるが手塚から目をそらさない。 「取りあえず涙は止まったようだな」 チュッチュっと軽くリョーマの両目尻に音キスをする。手塚は内心では安堵していた。手塚だって感情のある人間だ。恋人であるのリョーマの泣き顔にはとことん弱い。本当はこのまま抱きしめてキスをしたいと思うが、今はきちんとリョーマと話をせねばと頭を切り換える。 「それで…お前は俺と離れたいと思っているのか?」 手塚は真剣な顔でリョーマに問うと、 「離れたくなんかないよ!」 と即答でリョーマは返事を返す。 「なら…」 問題ないと言おうとした手塚にリョーマが口を開く。 「でも俺のせいで国光が嫌な目にあうのが1番嫌なんだよ。俺のせいで国光が悪く思われているなんて…」 リョーマの問題はそこにあった。自分と付き合っているせいで手塚が悪く思われる事がリョーマにとっては一番のダメージなのだ。 「俺嫌なんだ…」 再び涙が滲んでくるが、今度はきちんと手塚の目を見ながらリョーマは言葉を続ける。 「リョーマ」 手塚はそんなリョーマの頬を両手で優しく包み込む。 「俺は…お前と離れる事が1番嫌なんだ」 手塚は真剣な眼差しでリョーマに自分の気持ちを伝える。 「確かに周りからは色々と嫌な事を言われるかもしれないが、それでも俺はリョーマとずっと一緒にいたいんだ」 手塚は普段あまり喋らないので、その分自分の意志をしっかりと言葉に出していう。飾りも何もないストレートに自分の気持ちを言葉にする。 「リョーマ。俺はお前にこの先もずっと俺の側に居て欲しいんだ。」 言い終わるのと同時に唇キスをされる。 お互いの唇が離れるとリョーマが手塚の首に抱きついてくる。 「俺も、俺もずっと国光の側にいたい!国光と離れたくないよ…」 手塚の肩に顔を埋めながらリョーマも自分の思いを素直に言葉に出す。 「俺も離れたくない」 手塚はギュと一瞬だけ力を入れてリョーマを抱きしめる。 「国光」 リョーマが顔を上げて小首を少し傾ける。手塚は普段絶対に見せないような優しい笑みを浮かべる。リョーマもいつもの生意気な挑戦的な笑みではなく自然な笑顔を手塚に向ける。そしてどちらからともなく、2人は長いキスを交わした。
ちなみにあの後、2人は5時間目をサボってしまったのは言うまでもない事かもしれない。そして6時間目の今、リョーマは手塚の膝の上で気持ちよさそうに寝息を立てている。手塚はそんなリョーマの髪を撫でている。 幸せそうな2人を邪魔するものは今はなにも無かった。
END BACK BGM 煉獄庭園様 「命の儚さ」 |