エイプリルフール
4月1日。
エイプリルフール。
この日はどんな嘘を吐いても許される日。
だからちょっとだけ『あの人』を困らせてみよう。
昼休みの生徒会室では、いつも通り手塚とリョーマは一緒にお昼を食べていた。
ここまではいつもと同じ。
お昼を食べ終わり、残りの休み時間を二人でのんびりと過ごす。それがこの恋人達にとっては何よりも幸せな時間だたりもする。
だが、今日はちょっとだけ違った。
弁当を仕舞い、リョーマは隣に座る手塚の顔をチラッと覗き込む。
「何だ?」
視線に気付き、手塚はリョーマの方に首を向ける。
「あのね…」
リョーマはどこか神妙な顔つきで手塚を見る。
「どうしたリョーマ…」
手塚はいつもとは少し違うリョーマを不思議そうに見つめる。いつも、自分といる時のリョーマは殆ど笑顔が多く神妙な表情を浮かべる事は殆ど無かったりする。
手塚はどこか調子が悪いのではないかと危惧して、リョーマの額にそっと手を載せようとした時、リョーマが僅かに躰を後に逸らした。
「リョーマ?」
明らかに自分を避けたような態度を取ったリョーマに、手塚は内心困惑した。
(何か…怒らせる事を俺はしてしまったのだろうか?)
自分は大切な恋人を傷つけてしまったのではないかと、手塚は色々と思い出すが、今日も昨日もいつも通りでこれといってリョーマに何かしたという事は思いつかなかった。
最近は部活にもきちんと出ているし、昼休みや下校も一緒だし…自分では気付かない内に何かしてしまったのかと、手塚は本気で悩んだ。
だが、考えても全く思い出せないというか心覚えが無いので手塚はリョーマに聞いてみる事にした。
「リョーマ何か…」
「俺、国光の事キライになっちゃった」
手塚の台詞を遮るかのように、リョーマはにっこりと笑いながら手塚に言う。
「……!?」
手塚はリョーマの台詞が一瞬理解できなかった。
「国光?」
リョーマは呆然としている手塚の前に手を翳して左右に振る。だが、手塚にはリョーマの手は見えていなかった。
『俺ね、国光の事キライになった』
リョーマの台詞が頭の中で何度もリピートされている。
(ついに…この日がきたか)
恋人になり3ヶ月というとても短い期間だったが、気まぐれな猫そのものの様なリョーマのことだ、いつまた違う人を好きになり自分の元を離れて行くかもしれないと考えてない訳ではなかったが、やはり別れを告げられるのはかなり…辛い。
だが、リョーマがこれ以上自分と一緒にいたくは無いというのならやはり別れなければならないだろう。
手塚は一度、小さく深呼吸をすると目の前で笑顔を向けているリョーマを見る。
「そうか…わかった。お前がそれを望むなら別れよう」
声が震えていないか手塚は心配に思うが、それよりもリョーマの顔を見れなくて手塚は顔を背けた。
そして自分の荷物を持つと、椅子から立ち上がり部屋から出ていこうとした。
「待ってっ!」
だが、手塚が立ち上がるより前に横から力強く制服を掴まれて手塚は立ち上がる事ができなかった。
「何だ…リョーマッ!?」
手塚は制服を掴んだ相手の方に顔を向けて、まだ何か用があるのか?と言おうと口を開きかけたが、リョーマの顔を見て驚愕する。
「待って…くにみつ…」
そう言うリョーマの顔からは涙がボロボロと零れていた。
「どうした?リョーマっ、何処か痛いのか?」
手塚はリョーマの両手を制服から剥がし、自分の両手で握りしめながら狼狽する。
だが、リョーマはブンブンと首を左右に振りながら「ごめんなさい」と何度も呟く。
「きら…っ…、なって…な…からぁ…」
リョーマは大きな瞳から止めどなく涙を流し続けながら、手塚を見つめながら訴える。
だが、リョーマの台詞は嗚咽が混じり、手塚には何を言っているのかさっぱり分からなかった。
手塚はリョーマを宥めるため、両手をリョーマの手から離すと、そっと頭の上に手を乗せる。そして優しく頭を撫でる。
途端、リョーマは手塚の胸に思いきりダイブした。勿論、手塚はしっかりとそれを受け止めたのだった。
それから暫くして、ようやく落ち着きを取り戻したリョーマは手塚の腕の中でモゾモゾと顔を上げる。
「落ち着いたか?」
手塚は優しくリョーマに問いかける。
リョーマはコクンと首を縦に振り、手塚の制服をギュッと握りしめる。
「…ごめんなさい。まさか、こんな事になるとは思わなかったから…」
リョーマは手塚の腕の中でボソボソと話し出す。
「一体何のことだ?」
手塚はリョーマの台詞の意味が分からなくて聞いてみる事にした。
「あ…のね、今日は4月1日で……エイプリルフールでしょ?」
リョーマのその言葉を聞いて、手塚は要約リョーマのやろうとしていた事が分かった。
「あぁ。リョーマのやろうとした事が全部分かった」
手塚は、思いきり盛大な溜息を吐いた。
エイプリルフールという今日、リョーマはおそらく自分をからかいたかったのだろう。
「エイプリルフールで俺をからかいたかったんだろう?」
自分の考えをそのままリョーマに言うと、案の定リョーマは素直に頷いた。
「でも…国光が本当に別れるって言って、もうどうしたらいいか分からなくなっちゃった…」
リョーマは手塚を見ながらまた少し、涙を浮かばせた。
「リョーマ、いくら今日がエイプリルフールだからといって嘘にもついて『良い嘘』と『悪い嘘』があるんだぞ」
手塚はリョーマの目元に指を這わせて、目尻に浮かぶリョーマの涙を指先で拭う。
「俺は悪い嘘ついたの?」
「そうだ」
手塚はキッパリと言う。
エイプリルフールだという事をすっかり忘れていた自分にも多少は非があると思うが、やはり別れ話の嘘は嘘だと分かっていても、手塚にはかなりショックだった。
「…ごめんなさい」
リョーマは手塚の制服に顔を埋めながら何度も「ごめんなさい」を繰り返す。
「分かったから…もう泣くな、リョーマ」
手塚はリョーマの頬に手をずらすと、そっと両頬を挟み目元に優しく宥めるキスを送る。
目尻や瞼に何度もキスをして、やがて唇は額や鼻梁、そして唇に移る。
啄むように何度もリョーマの唇に手塚は口付けを続ける、啄むだけのキスはやがて深いものとなり、手塚はリョーマの口腔の中に舌を差し込むとそのままリョーマの口内を思いきり蹂躙したのだった。
「ねぇ…俺が『別れよう』って言ったとき何であんなにあっさりとOKしたの?」
手塚の膝の上に腰掛けて、抱きしめてもらいながらリョーマはふと疑問を口にした。
(本当に好きなら…何であんなに簡単に身を引くのだろう?もっと引き留めてくれたっていいんじゃないの?)
もしかしたら自分は手塚にとってはそんなに大事な存在なのではないかもしれない…とリョーマはそんな事を思った。
「もしかして、あっさりと別れを承諾したから自分は愛されていないとでも思ったのか?」
まるでリョーマの心を見透かしたかのような手塚の台詞に、リョーマは思いきり目を見開いて手塚を見上げる。
リョーマの素直過ぎな表情に手塚は内心苦笑しながらも、そっとリョーマの左手を取り、口元に持ってくると、手の甲にチュッと音を立ててキスをする。
「俺はリョーマの事がとても大切だ」
唇を離しながら手塚はリョーマの目を見て言う。
「リョーマが大切だから、俺より好きな人ができたと言われたら大人しく身を引こうと思ったんだ。その方がリョーマにとって幸せだと思ったからな」
手塚は自分の想ったことをリョーマに淡々と告げる。
「俺は…国光がすっごく大好きだよ。今も、これからもずっと国光の事が一番大事な存在なんだから信じてよね!」
リョーマは空いている右手で、目の前にある手塚の腕をそっと握る。そして、自分の今の気持ちを手塚に告げる。
「それに俺は国光が他の人を好きになんて、余所見なんて出来ない程メロメロにするんだから!!だから国光も、俺が余所見できない程俺のことこれからもメロメロにさせてね」
少し怒った口調でリョーマは手塚を見ると、悪戯っぽく笑う。
そんなリョーマに手塚もつられて笑いう。
「今後も俺を今以上メロメロにしてくれ」
手塚はリョーマに向かって、そう告げる。
「だから国光も俺をずっとメロメロにさせてよね!」
リョーマは右手を手塚の前に持ってくると、一指し指を立ててビシッと向ける。
「あぁ。リョーマが側から離れないよう全力を尽くさなければならないな」
手塚はリョーマの躰を量腕で抱きしめる。
結局今日という日もアナタには勝てなかった。
でも、それよりもっと幸せな事がわかったから別にいいかな。
嘘よりも真実の方がずっと、ずっと自分には大切な事だから。
コメント
一生やっててください…。
そんなこんなでエイプリルフール作品1つめです。この話完成までもの凄く短かった気がします。1時間少し。
本当に、相変わらず周り見えてなさすぎの二人で書いている自分も少し恥ずかしいです。メロメロとか使ってる時点でかなり…(汗)
なんかこの二人だとエイプリルフールもバレンタインやクリスマスな扱いになるのだから不思議デス。糖分取りすぎなお話ですが愛は詰まってります。正直、それしか詰まってないデス。他に詰められるモノが無いので(涙)
最後までお付き合い有り難うございます。
BACK