キラキラ
貴方は私にとってとても眩しい存在。
手を伸ばして、目一杯背伸びしても全然届かない。
だけど、それが悔しいとか憎らしいとかは不思議と思わない。
ただ悲しいー。
いつか自分の元から離れていきそうで。
自分なんかよりももっと眩しい世界に行ってしまいそうで。
それが恐い。
自分から離れて行ってしまうかもしれない事が…
とても、とても恐いんだ。
「いつか遠くへ行っちゃうのかな…やっぱり」
部活終了後の無人の更衣室でリョーマはベンチの上に膝を抱えながら呟く。
本日、手塚は生徒会の用事が忙しいので部活には参加できないでいた。
別にいつもの事と思えばそうなのだが、手塚が部活に出なくなり本日で4日になる。
そしてリョーマが手塚と話をしない日も4日目である。
「顔だけなら、たまに遠くから見かけるけど…」
(ちゃんと国光と話がしたい)
膝を抱える腕に自然と力がこもる。
だが、手塚が忙しいのは付き合う前から知っていた事だし、本人好きで多忙な学校生活を送っているわけでは無いので、リョーマは何も言えないでいた。
本当は毎日でも一緒にいたいのだが、我が儘を言ってしまったら手塚に嫌われるかもしれないという不安がいつも付きまとって離れない。
告白をしたのはリョーマからだった。
振られる覚悟で告白した。
どうしても自分の気持ちがごまかせなくなったから。
たとえ、嫌われても、二度と顔を見たくないと言われると分かっていても、自分の心に嘘がつけなかったから。
だから頑張って持てる限りの勇気を出して手塚に「好きだ」と告白をした。
そして手塚はOKを出してくれた。
だけど、恋人同士になっても手塚はいつも忙しそうで、それでも何とかリョーマとの時間を作ろうと努力しいた事にリョーマは気付いていた。
自分に対する小さな思いやりにリョーマは本当に嬉しかった。
でも、会えない日が重なると、心を巣くう不安もまた広がる。
一度思ってしまえば中々その思いを消す事はできない。
『手塚は自分を置いてどこか遠く行ってしまう』
という不安がリョーマの中にどんどんを広がっていく。
「…俺ってサイテーかも」
(4日会ってないだけでこんなに女々しくなるなんて…)
どうしてだか泣きたくなったその時、ガチャっと更衣室のドアが開いた。
「越前?」
自分を呼ぶ声にリョーマは勢いよく膝から顔を上げる。
「……っ!」
目の前にいるのは今自分が想っていた人物、手塚がいた。
(国光!)
リョーマは心の中でそう叫びながら、目の前の人をただ見る事しかできなかった。
「リョ、リョーマ!!」
手塚は焦ったようにリョーマの名前を呼び、近づいてくる。
「どうしたんだ?リョーマ!」
手塚は片膝を立てリョーマと目線を合わせると、そっと頬に触れる。
「…国光?」
リョーマは手塚の顔を不思議そうに見つめる。
「どうして泣いてるんだ?」
手塚は頬に流れるリョーマの涙を指先で拭うと、じっと見つめる。
「俺…泣いてる?」
手塚に言われるまでリョーマは自分自身が泣いているという事に全く気づいてなく、右手で目元を拭う。
「…ホントだ」
指先が濡れてリョーマは自分が泣いているという事に改めて気付いたのだった。
「何かあったのか?」
手塚は久々に会う恋人を心配する。
(俺がいない間に何があったんだ?)
手塚は自分の不在中にリョーマを泣かせる事があった事に気付かずに内心で苛立つ。
「何にもないよ」
だが、リョーマからの答えは以外だった。
「ならどうして…」
手塚はリョーマの顔を覗き込み問う。
「……多分、国光に会えたから…かな」
リョーマは微かに頬を赤く染め、俯きながらポツリと呟く。
「………」
呟きは手塚にも充分聞こえたらしく、手塚の顔も微かに赤く染まる。
両者共にしばしの沈黙が流れるが、先に破ったのは手塚の方だった。
「すまない」
「何で謝るの?」
手塚の台詞にリョーマは困惑する。
一体手塚がどういう意味での「すまない」なのだかがリョーマには分からなかった。
そして不安にかられたリョーマの考えは先程考えた、自分と付き合った事に対しての謝罪なのかもしれないと思ってしまう。
「もしかしてもう俺と付き合えない?」
リョーマはなるべく平静を保つ努力をしながら手塚に問いかける。だが、力を込め握ったて両手は緊張で汗ばんでいく。
「リョーマ?」
リョーマの台詞に手塚は内心慌てる。
「俺があやまったのは、お前を泣かせた事なんだが…」
とにかくリョーマは先程自分の言った台詞で誤解をしている事だけは理解できたので、手塚はその分部から問題を整理しようと自身に言い聞かせる。
「別に国光は俺に悪い事してないよ」
リョーマは俯いたまま手塚に答える。
「じゃぁ、どうして別れ話みたいな事を言ったんだ?」
「それは…」
「それは?」
言い淀むリョーマに手塚は優しく促す。
「最近国光と会えなくて…でも俺は寂しいって思うけど…国光は毎日すごく忙しいそうで…。それで国光はいつか遠くに行っちゃう気がして…」
リョーマは自分でも何を言いたいのか分からないのだが、今の自分の心境を手塚に知ってもらいたくて必死に思いを言葉にする。
「リョーマ」
優しく名前を呼ばれると共に、手塚の腕に抱きしめられる。
「寂しかったか?」
手塚はリョーマを抱きしめる腕に力を入れながら問いかける。
「……うん」
リョーマは小さく呟くと、おずおずと手塚の背中に腕を回す。
「俺もリョーマに会いたかった」
「え?」
手塚の台詞にリョーマは顔を上げる。
「4日も恋人と会えないのはやっぱり寂しいものだな」
手塚は苦笑しながらリョーマ背中をポンポンと優しく叩く。
「俺も、会えなくて寂しかった。忙しいって分かってたけど、やっぱり会いたかったんだ」
リョーマは手塚の制服をギュっと握り、腕の中で安堵する。
「生徒会の仕事も今日で一段落したから明日からは部活に参加できるようになった」
帰り道、手塚は隣でファンタを飲んでいるリョーマにそう告げる。
「本当!?」
リョーマは缶から顔を離すと、嬉しそうに手塚を見る。
「あぁ」
手塚もリョーマにつられて小さく笑みを浮かべる。
「それと、これからは電話をちゃんとしようと思う。俺はリョーマの声を聞きたいから」
「うん!俺も国光と電話で話したい!…でも、忙しい日も電話していいの?」
リョーマは疲れている手塚を無理矢理電話に出させる事に戸惑う。
「勿論だ。俺はどんな時でもリョーマの声を聞きたいからな」
手塚はリョーマの髪をクシャっと混ぜる。
「俺も国光の声を毎日聞きたいよ」
リョーマは頭にある手塚の手に自分の掌を合わせた。
それからは手塚とリョーマに夜、電話をかけた者は通話中か出ないかのどちらかだという事が続いたとか。
END
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