Pillow talk〜after〜
小さく自分自身に微かに聞こえる程度の音で俺は呟く。
「何で…」
勿論返事は無い。今目の前にいる水都は眠りについているから。
規則正しい寝息が聞こえて俺は何だか苛つくと同時に何故か無性に泣きたくなった。
いつからか俺は、毎晩水都が俺の髪を梳いたり、触れるだけのキスをしたりする事に気付いていた。
初めはただの夢だと思っていた。
だって水都が俺をそういう風に扱うわけがないと思っていたから。
だけど現実だったのだ。
ある日思い切って片目を微かに開けてみた。
どうしてこんな事をするのかという事も聞きたかったが、何よりアイツがどんな顔をして俺に触れているのか見たくなった。
想像していたのは口の端を吊り上げて俺を見下ろしているアイツの顔だった。
だけど実際は…凄く苦しそうな目をしながら俺を見ていた。いや、俺を見ているようで何処か遠くを見ていたんだ。
そして手は俺の髪に絡まる。すごく優しくまるで大事にされているのでないかと思ってしまう位…優しい手つきで。
時々どこか自嘲気味に笑うアイツは自分では気付いていないだろう、とても悲しい目をしている。
まるで今にも泣きそうな、そんな表現がピッタリな瞳で俺を見る。
その時、俺はどうしてだか胸が苦しくなる…。
きっとアイツに同情しているのかもしれない。それ以外の理由があったとしても俺は無視をする。
だっていつまで経っても玩具は玩具でしかないのだから。
持ち主が飽きるまで付き合うのが玩具の役目。
だからアイツが俺を捨てた時、俺は喜びを感じなくてはいけない。
実際水都は俺に対する扱い方は酷い。
機会や薬とか首輪とか…とにかく酷いことばかりしてくる上、時間や場所もわきまえずに抱くし…何一つ自分にとって良いことは無いはずあのに。
(むしろ憎むべき相手なんだけどな)
俺は心の中でそう呟いた。
とにかく初めから最悪だった。そして藤守や祭の前で俺を何度も犯すし、水都意外の奴と少しでも会話すればもうお仕置きと名の付く強姦まがいな事をしてくるしで最悪な上この上ない。
最悪なのに…なのに何でかこいつを本気で憎めない自分がいる。
あの瞳を見たせいだろうか。
あんな切なそうにしている顔を見せるから…。
目を開けたことを今更ながら少しだけ後悔する。
少しだけ…。
「もういいや…寝よう」
何だか水都の事で一人悩んでるのもおかしい話だ。
俺は自分の考えに自嘲すると、水都の腕が俺を抱き寄せる。
「っ!!」
行き成りの事で俺はビクッと思わず強張るが、水都は更に力を込めて自分を抱き寄せる。
水都の胸の中に抱き込まれて驚きはしたが、不思議と嫌な感じはしない。
今までもそうだった。水都と一緒に寝るときはどうしてだか不快な思いはなかった。
抱かれる時も嫌だけど、嫌悪感というのは無い。
(顔が良いからかもな…不細工だったらマジで嫌だけど…って俺何考えてるんだよ)
自分の考えがとっても恥ずかしくて俺はブンブンと小さく首を振る。
ちなみに大きく振ったら水都が起きてしまうかもしれないから小さく振った。
「…ったく…早く俺なんかに飽きろよな」
水都の胸の中でポツリと呟く。
密着しているからか、トクトクと水都の心臓の音が聞こえてくる。
(そういえば心臓の音って精神安定剤なんだっけ…)
昔誰かがそんな事を言っていたのをふと思いだしながら、俺は眠りに落ちた。
スヤスヤと気持ちよさそうに寝ている少年の頭を撫でながら今まで寝ていた男が目を開ける。
「お前に飽きる事は暫くはないのだがな」
男…もとい、水都は空の呟きを思いだして苦笑する。
毎晩空が自分が寝静まった後、何かを考えている事はわかった。だけど水都はそれを聞く気は無い。
きっとここから抜け出せる事を考えているに違いなにのだから。
勿論、自分も逃がそうとは思ってもいないが。
空は初めて手に入れていと思ったモノなのだから。自分が望んで欲したモノだ。
「お前を誰にも渡さない。たとえ法に引っかかった行為だろうがお前を放しはしない」
(それがお前の意志を無視しても…だ)
あどけなく眠る空の髪に小さなキスを送る。
だが表情は何処か切なげで…。
水都自身自分の表情には全く気づいていない。
今どんな顔をして空を見ているのかを…。
「良い夢を見てくれ」
(良い夢を…せめて夢の中では笑ってもらいたいから。笑顔を奪った自分が言うのもおかしいが空には笑ってもらいたいのだ)
水都はもう一度空の背に腕を回して、逃げる事を恐れているかのようにギュッと抱きしめて再び眠りに入ったのだった。
お互いに夜の出来事を知っていながら知らないふりをする。
そしてそのまま朝を迎えてまた夜になる。
すれ違う思いの行き先は繋がっているのだろうか?
だけどお互い自分から繋げようとは思わない。
臆病になっているから…。
相手に自分の存在を受け入れてもらえないと決めつけているから。
だから今日も無言のまま躰を合わせる。
自分という存在を相手に教えるように。