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空と太陽 夜と月

 

 

 

自分の作り出した世界だから誰かが入ってきても直ぐに気付く。

だが、「誰か」という言葉は適切ではない。

入って来れるのはただ一人。

本体の俺、つまり「空」ただ一人だけだ。

 

 

 

「どうした、空?」

俺は直ぐに空の元に近寄りながら声をかける。

自分の空間なので行き来するのはほんの数秒程度。嫌、この世界では時間はあまり関係ないのかもしれない。それさえも自由になるのだから。

全く人の脳というのは本当に不思議なモノだ。

空に声をかけながらも、俺は頭の隅でそんな事をふと、思った。

「よる〜っ」

空は後に振り返ると、俺の方に駆け寄ってくるとそのまま俺の胸にダイブしてきた。

「どうした?そんなに慌てて」

俺は空の躰を両手でしっかりと抱きしめながら苦笑する。

「別に慌ててなんかないもん!」

変な所で意地っ張りな空は俺の台詞がからかいの言葉だと受け取ったらしく、頬をぷくぅと膨らませて軽く睨む。

が、幼い空ではそれは全くの逆効果で、恐いという言葉より可愛いや愛らしいという言葉がピッタリだ。

「そんなに可愛い顔しても恐くないぞ」

「俺は怒ってるの!俺は全然可愛くないんだから!!」

素直に思った事を口にすると空は益々機嫌が悪くなったらしく、今度はポカポカと両手で俺の胸を叩きながら怒り始める。

そんな空の様子が本当に可愛くて俺は笑みを止められない。

「そんなに怒るなって」

空の頭を撫でながら俺はご機嫌取りをする。

「悪いと思ってるならごめんなさいは?」

どこでそんな台詞を覚えてきたのだろう?と俺でも驚くような台詞を幼い空が発したのには少々驚いた。

「空〜そんなに拗ねるなって」

「じゃ、謝って」

上目使いに俺を見つめる(おそらくは睨んでるのだろうが)空に俺は素直に参った。

おそらく男の自分が可愛いと言われて怒っているのだろうが、じっと自分を見つめる空は正しく小動物のようで思わず抱きしめて、かいぐりしたい程の愛らしさだ。

何とかその衝動を抑えて(じゃないと、いつまでも拗ねっぱなしになるから)俺は空に謝る。

「悪かったって。からかいすぎた」

「じゃぁ、許してあげる」

途端、ニッコリと笑顔を俺に向ける空を見て衝動的に思いきり抱きしめる。

「サンキュー空!大好きだぞっ!!」

「うわっ!」

ぎゅぅぅっと細い躰を抱きしめながら、俺は後に倒れる。

幸いというか、精神世界なので後から思いきり倒れても痛みは微塵も無い。俺が望まない限りこの世界には感覚というものは現れないようになっている。

だから空が自分の所に来たときは絶対に傷みを与えないとう誓いを俺自身が考えて立てた。自分の元に空が来たら徹底的に甘やかしてやることにした。

現実は彼にとってはとても残酷なモノだから…。

 

 

「空…今日も1日よく頑張ったな」

空ごと、上半身を持ち上げながら俺は空の髪をクシャリと混ぜる。

「俺、頑張ったよ。今日はね俺一回も泣かなかったんだ。ナオもね今日は泣かなかったんだよ」

空は嬉しそうに笑いながら俺に言う。

「そっか…偉いな」

空の頬を手の甲で撫でながら俺も笑いかけるが、心境は複雑だ。本当なら普通に泣いて、笑っていられる生活が送れる環境にいた筈なのに…今ではモルモットとして苦痛と恐怖だけの世界に連れて行かれた。

痛ましいもう一人の自分に胸がチクリと痛む。

どうしてか、空の事になると“痛み”という感覚が自分の中に生まれる。決して躰には与えられる事のない目に見えない痛みが襲ってくる。

彼が与えられる外傷を自分も心で感じて受け取っているのかもしれないと俺は密かに思っているが、実際主体は同じだとしても個々の人格者である俺達には分からない。

「よる?どうしたの?」

空に名前を呼ばれて俺はハッと目の前を見ると、そこには心配そうに俺を見上げる空がいた。

「どっか痛いの?」

瞳に僅かだが涙を浮かべる空の姿を見て、俺は思わず抱きしめてしまう。

「大丈夫だから…心配かけて悪ぃな」

空の後頭部をあやすように叩きながら小さなぬくもりを確かめる様にもう一度きつく抱きしめる。

ふと、空の服の間から見える素肌に目線を送ると、腕や首に残る幾つかの赤い注射の跡と、おそらく研究所の奴等に暴力を受けたのだろう青痣も幾つか浮かんでいた。

俺は痛々しい空の体を見て自然と怒りが沸き上がってくる。

「注射打たれてももう俺、泣かないことにしたんだ」

腕の中にいる空がポツリと呟く。

「空?」

「だってね…俺が泣くと直に酷いことするから…だから俺は泣かないの。どんなに痛くても、苦しくてももう泣くのはやめるんだ」

懸命に言いながらも躰を小刻みに震わす空の躰を俺はただただ、抱きしめることしかできない。

どうしてこんな目に合わなければいけないのだろう。

全ての元凶はなんだったのだろうか。

この小さな生命を誰がここまで追い込んだのだろう…絶望と恐怖と苦痛だけが生まれるこの世界に。

 

 

 

「空。ここならいつでも泣いていいぞ。苦しかったり、痛かったりしたらいつでも俺の所でいっぱい泣け。ここにはアイツ等だって入って来ることはできない。何たって、俺と空だけの世界だからな」

空の小さな背中をさす俺は宥めるように言う。

「だから元気出せ。な?」

空の頬を優しく両手で挟みこんで俺は笑いかける。

「…俺とよるだけの世界?」

空は俺の台詞を反芻しながらきょとんとした表情を浮かべる。

「あぁ。ここは俺と空だけしかいない世界だから。空を苛める奴は誰もいないぞ」

「ほんと?」

「俺が空に嘘ついた事あったか?…そうだな証拠を見せてやった方が納得するな」

俺はニヤっと少し意地の悪い笑みをわざと浮かべながら、空の右腕をそっと持ち上げる。

「じゃ、今から俺が魔法を見せてやろうな」

「うん!」

俺の言葉に空は元気良く返事をする。

「そんじゃいくぞ!ワン・ツー・スリー」

言葉に合わせて俺は左の人差し指から白い光を出す。

「うわぁぁ!!よるってスゴイ!」

空は驚いたように俺の手をマジマジと見ている。精神界では何でも有りだからこれくらい大したこはないのだが、空の表情を見て俺まで嬉しくなる。

「スゴイか?」

「うん!本当の魔法使いみたい」

「そんじゃ、次はもうちょっと空を喜ばしてやろうな」

言いながら俺はパチンっと指を鳴らした。

途端、空の躰は何もない真っ白な素肌に戻った。

「この世界限定だけどな」

言いながら俺は口元に笑みを浮かべる。

無力な自分自身への嘲笑を。現実世界では自分は空に対して何もできない。手を差し伸べてやることも、憎らしい研究員達を痛めつける事も…何もできないのだ。

「ありがと!よる」

だが、空はそんな俺に眩しいばかりの笑顔を向けてくれた。

「よるはいっつも何でもできるからスゴイね」

「スゴイ…か?」

(こんな無力な自分が?)

「うん!よるは俺のヒーローだもん」

「でも俺は空にしかこんな事やんねーぞ」

「どうして?」

「空が一番大切だから」

唯一のモノだから。だから他の人間なんてどうでもいい。『空』がいるから俺がいるのだから。

「俺もよるのこと大切だよ」

空のその一言が俺にとっては何よりも嬉しい台詞。

その言葉があるから俺は俺でいられるのだから。

 

 

 

 

今日も空は傷だらけの格好で自分の元にやってきた。

そして俺は空の躰の傷を消す。

ここ最近はずっと空が来る度に俺は傷を消している。

夢世界だけでも空には喜んで貰いたいからだ。

 

 

「よるはお月様だよね」

定位置になっている、俺の膝の上で空は楽しそうに話す。

「俺が月?」

空の台詞に俺自身が驚いた。

「うん!だって夜のこっちの目は黄色でお月さまみたいなんだもん」

自分の左目を差しながら空は楽しそうに話す。

「そんな事思った事もなかったな」

自分でも左右の瞳が違うことはわかっていたが、理由といのは全く考えていなかった。

「お月さまはね、真っ暗な夜を優しく照らして不安を取り除いてくれるんだ」

空の台詞に俺は嬉しくなる。

「あ、でもお月さまってお昼も出てる時あったんだっけ」

考えこむ空に思わず口元が緩んでしまう。

「青空の日でも見える月ってことか?」

「うん!」

「『空』を見守る月…ねぇ。」

ならこれからも俺は空を守ろう。

無力な自分だが、生まれた理由だけは知っている。

俺は「空」を「守る」為に生まれた存在。だから俺の名前は“夜”になった。

“夜”は唯一、空を包める存在なのだから。

「そういう理由なら俺は満足だ」

果たして合っているのかは俺自身わからない。だが、もしそうだとしなくても俺はやはり自分を「夜」の様に「空」を守るだろう。

大切なもう一人の自分は俺にとって大切な存在だから。

 

 

 

 

「夜」は空を包むモノ、

「月」は優しく見守るモノ。

「夜」という名の俺の存在は、『空』を包むように守り、そして優しく見守る為に生まれた。

これからも俺は守り続ける。太陽のような笑顔を俺に向け、晴れやかな気持ちを与えてくれる「空」の為に。

 

 

 

 

 

 

コメント

お風呂に入っている最中にふと思いつきました(笑)きっかけは「何で夜の目ってオッドアイなのかな?」と。それからどうして黄色?という疑問になり自己解釈でこの話ができました。でも最後の辺にしか入れられなかったのが残念。夜の左目は夜空をひっそりと照らし見守る月か、空を見守る太陽の役割かな〜とか色々と考えていたのですが、最後は名前にひっかけました(苦笑)

個人解釈なので「違う」と思う方もいっぱいいると思いますが、人それぞれ十人十色ですので。私はこんな感じかな?と思いました。




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