玄関のチャイムが鳴り、ドアを開けた瞬間目の前の人物は笑顔で部屋の主である奏司に訪ねる。
「……兄さん…、取りあえず中に入って下さい」
奏司は大きく溜息を吐きながら彼の兄でもある綾野を家に招いた。
綾野を自宅件事務所のリビングに通すと、奏司は紅茶を淹れるためにキッチンへと向かう。
綾野も勝手知ったる…という態度で革張りのソファに腰掛け、テーブルの上に置いてある雑誌にをパラパラと捲る。
「一体、こんな時にどうしたんですか?」
奏司はキッチンから綾野に声をかける。
「どうした…って可愛い私の弟の誕生日を祝いに兄が来てはいけないのかい?」
綾野は雑誌をパラパラと捲りながら奏司の問いに苦笑しながら応える。
「そうじゃなくて……この状況でという事です」
奏司は温めたにポットにお湯を注ぎながら綾野に言う。
「取りあえず紅茶を飲みながら話さない?」
綾野は雑誌に目線を向けたまま奏司に問い返した。
「そうですね」
奏司も綾野の意見に賛成して、二人分の紅茶を用意した。
「はい。どうぞ」
「ありがとう」
2つのティーカップを応接テーブルの上に置くと、奏司は相向いのソファに自分も腰掛ける。
「ずいぶんと早かったね」
綾野壁に掛かっている時計を見て少々驚いてる表情をする。
何せ奏司は紅茶マニアという名が相応しい程の紅茶好きである。淹れるのもティーパックではなく、きちんと抽出・サーブ用のポットも使いリーフから淹れる紅茶以外自宅では飲むことはまず無い。
だが、綾野が奏司の自宅に来てからまだ3分位しか経っていないので綾野は素直に疑問に思った。
「これからお茶にする予定だったので準備をしている最中に兄さんが来たんです」
奏司はティーカップを口に運びながら小さく告げる。
「そうだ、奏司は今年は何か欲しいものはあるかい?」
綾野はここへ来た目的を思いだしたと言うように、奏司に笑顔を向ける。
「兄さん…この状況でよくそんな事言えますね」
綾野の台詞に奏司は軽く眉を吊り上げる。
「それは、真一朗が相沢に連れていかれた…と、いう状況のことかな?」
綾野は微笑しながら奏司の求める答えを出すと、目の前に出されている紅茶をのんびりと口に運ぶ。
「その通りです。今頃真一朗や直君がどうなっているのか僕は本当に心配なんです。それに空君や七海も気丈に振る舞ってはいますが内心では毎日が落ち着かないんだと思います」
奏司は両手をキツク握りしめながら足下を見る。
「毎日そんな事考えたら頭痛くならない?」
ポツリと綾野が呟く。
「は?」
「真一朗がいなくなってからまだ半年位だけど、奏司毎日皆の心配しながら生活してるの?」
綾野の台詞に奏司は間の抜けた表情でしか返答できなかった。
「だって、奏司その間っていうか、空クンを運んでくる時とお見舞いの時しか私の所に来てくれないじゃないか。空クンが居なかったら私の元には来ず、七海の所に行くししかも、普通に仕事も忙しいしで、本っ当に兄不幸者だよね〜」
「兄さん…今はそんな事言ってる場合じゃ……」
あきれ返る奏司に対して、綾野はムキになったように喋る。
「私には同じ事だよ!いっつも私の事は放っておいて、真一朗達の方に構いっきりで……相沢だってバカじゃないんだし、その内絶対に空クン達の前に現れる。一応私は相沢とは付き合いがあったからそれ位の事はわかるよ。奏司だってそう思ってるんじゃない?」
綾野の指摘に奏司の表情が険しくなる。
「確かに、相沢は真一朗に執着心があるのは僕にも分かります。それに研究所の場所も僕達は知っているにも関わらず真一朗を救助に行かないのは、もしかしたら…彼なら真一朗を助ける事ができるかもしれないという望みがあるからです。空君や七海には申し訳ないけど真一朗の命の問題だからヘタに手を出す事はできない。それにガードが堅いというのも事実です。正直時期を待つというよりは、むこうから仕掛けてくるのを待っているというのが正しいですね」
小さく溜息を吐きながら心情を話す奏司に綾野はソファの背に思いきりもたれ掛かる。
「まぁ相沢は真一朗が大切みたいだしね。本人無自覚だけど…」
「何か知っているんですか?」
綾野の台詞に奏司は少々気になり声をかけるが、綾野は笑顔で奏司の台詞を濁らした。
「それよりも、奏司だって分かってるなら今日は1日楽しく一緒に過ごそうじゃないか!一生に1回しかない年の誕生日なんだからv」
綾野は言いながら胸ポケットから2枚のオペラのチケットを取り出しテーブルの上に置く。
「たまには息抜きに出かけないとね。真一朗が帰ってくる前に奏司が心労で倒れたりしたら私は真一朗を許さないしね」
ニッコリと笑顔を浮かべながら後半恐ろしい言葉を発した綾野に奏司は何度目かの溜息を漏らした。
「何でこう…兄さんは昔から真一朗をからかったり、変なことを吹き込んだりするんですか」
「そんなの奏司に構ってもらいたいからに決まってるじゃないか!」
奏司の問いに綾野は自身満々に応えるが、問いかけた方は軽く顳を押さえる。
いい大人が自分に構って貰いたいというだけで幼少の頃から現在に至るまで散々な事を可愛い末弟に教え込んできたという事実に奏司は怒るを通り越して呆てしまう。
「それよりも開演が8時からなんだよね。今は3時過ぎだから…これから買い物にでかけないかい?それで早めに夕食取ってオペラを見て……まぁ時間は充分にあるしね」
綾野は元から用意していただろうプランを楽しそうに羅列する。
「そうですね…たまには息抜きも必要ですし」
奏司は苦笑しながら綾野の提案に同意する。
「真一朗が行方不明の誕生日なんて一生に一度かもしれないし、来年になったら、今度は空クン達も混ぜて皆で祝えるよ」
綾野は微笑みながら諭すように言う。
「来年は皆が幸せになれるといいですね」
願うように言う奏司に綾野も頷く。
「そうだね〜僕だけが幸せなのも申し訳無いしね」
「兄さん、そうやって茶化さないで下さい」
「僕はね。奏司がずっと側にいてくれるのが一番の幸せなんだ。だから今年もこうして奏司の誕生日を一緒に祝えて嬉しいのは本当だよ」
「綾野兄さん…」
綾野の台詞に奏司はただ、名前を呼ぶ事しかできなかった。何か言いたいのだが言葉がそれしか浮かんでこないのだ。
「そろそろ出かけようか?」
困惑気な表情を浮かべている奏司を見て、綾野は苦笑する。
「そうですね」
奏司は頷くと、冷めてしまった2人分のティーカップをトレイの上に乗せると、キッチンへと向かっていくが、途中で足を止める。
「僕も、兄さんとこうして過ごせて幸せですよ」
「え!?」
いきなりの奏司の発言に綾野はマジマジと奏司を見る。が、自分の方に背を向けたまま再びキッチンへと向かう奏司の表情を知るものは誰もいなかった。
〜 キッチンで荒い物を済ませた奏司と綾野のその後の会話 〜
「奏司〜っ、もう一回さっきの言葉言ってよ」
「さっき?何か言いましたか?」
「幸せって言ってくれたじゃないか!」
「そうでしたっけ?」
「そんな事言うなら……来年は奏司の誕生日祝ってあげないからね!」
「なら兄さんの誕生日も、祝うのやめますね」
「奏司〜いつからそんな兄不幸者になってしまったんだ〜」
「そんな事より、出かける支度してきます」
「奏司…冷たい……」
こうして今年の奏司の誕生日は始まるのだった。
ちゃんちゃん。
コメント
強制終了!誕生日?誕生日なのかな…あんまりお祝いムードの話じゃないなぁ。暗い設定ですみません。とか言いつつ水都の誕生日も暗い話のような思い出が(滝汗)
私の中では綾野ちゃんは奏司さんにラブラブというイメージがあります。奏空エンドを見ながら綾奏?とか思ってしまえる程の奏司さんにラブラブな感じがしたので。こんな話ですが、奏司さんお誕生日おめでとうございます!今年は綾野ちゃんと二人きりですが4年後にはまた大勢でパーティーできると思います(多分)
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BGM 煉獄庭園様 「Happy Birthday」