It is an invitation abruptly
何も無い、無機質な部屋で真一朗はベットの上に寝転がる。
「ったく、せめて部屋にテレビくらい置けってーの」
真一朗の今いる場所は相沢の学園地下にある研究所の一室。
研究員が部屋にたまにだが入ってくるので確信はできないが、真一朗はそう思っている。
そして、現在いる部屋は床がリノリウム、壁と天井は真っ白でまるで病室のような部屋。部屋にはベットがだけが置かれていて本当に何も無い。
密室という名にふさわしい部屋だった。
「毎日こんなんじゃ頭おかしくなりそうだわ。」
服装まで白のシャツとズボンで、異彩を放っているモノといえば自分自身だ。
真一朗は重い溜息を付くと、ジャラっという金属の掠れる音がした。
「…コレもだな」
そこには銀色の枷が嵌っていた。
枷には同じく銀色の鎖が繋がっていて、鎖はベットの足まで伸びている。
真一朗が目覚めてからまだあまり日が経ってないのだが、今があのマンションで起きた事からどれくらいの時間が経ったのかは真一朗には分からなかった。胸には刺された傷跡が消える事なく残っている。それは同時に自分があの時、かなりの重傷だという事を物語っていた。
そして目が覚めた時真っ先に移ったのは相沢だった。何か言っていたが霞む意識でよく聞き取る事はできなかった。そして再び目覚めるとこの部屋のベットの上だった。逃出す事が分かっているのだろう、足には枷が付き、鎖の長さは手を伸ばした時、ドアが届く手前までの長さしかなかった。
「…悪質な嫌がらせだぜ」
(ギリギリじゃなくどうせならベット周辺のみにしてくれれば諦めやすいのにな)
自嘲気味に笑いながら真一朗は、仰向けになったまま左足を上に上げる。同時にジャラジャラと鎖の擦れ合う音が部屋の中に響き渡る。
「俺はペットじゃねーってんだ」
プラプラと左足を前後に揺らしながら真一朗が愚痴ると同時に、部屋にある唯一の出入口がピピッという電子音と共に開いた。
「ペットのようなモノだろう?」
部屋に入ってくると同時にそんな台詞を言いながら、この研究所の主でもある相沢が入ってきた。
「ペットは愛玩動物って意味だろ。愛玩ならもうちょっと娯楽を与えてもいいんじゃねーの?」
真一朗はベットの上から相沢を一瞥する。
「飼い主それぞれの愛玩の形があるもんでな」
相沢は唇に薄い笑みを浮かべると、真一朗の足下の方のベットの上に腰掛ける。
「…さいですか」
真一朗は盛大な溜息を吐きながら、ゆっくりと上半身を起こす。
「で、何か用か?」
真一朗は相沢を軽く睨む。
「用があっては来てはいけないのか?」
対する相沢の方は口の端に笑みを浮かべてそう告げる。
「退屈なペットの話相手にでも来たっていうのか?」
嫌味と棘を含みながら真一朗は意地の悪い笑みを相沢に向ける。
「そうだ」
だが、返って来た返事は真一朗が思いもよらなかった返答だった。
「………マジ?」
たっぷりと間を置き、真一朗はマジマジと相沢を見る。
「傷の方も完治したようだし、お前も毎日退屈そうだからな。半日位なら付き合ってやれる」
相沢は相変わらず淡々とした口調で告げるが、内容は驚きである。
真一朗は思ってもみなかったというか、考えてもみなかった相沢の台詞に驚愕して声が出せないでいた。
「…嫌なら別に私は構わないが。用件はそれだけだ」
何も言わない真一朗に、相沢は「否定」という意味だと思いこみベットの上から腰を上げようとした途端、右腕を思いきり引っ張られ再び今度は勢いよくベットの上に腰を落とす。
「!?」
「誰が行かないって言った?」
白衣の裾を両手で握り占めながら真一朗は俯きながら小さな声で呟く。
「行くのか?」
自分から言ったのにも関わらず、相沢は疑問系で真一朗に問い返す。
「お前から言っておいてそういう事言うか?普通」
呆れた顔で真一朗は相沢を見上げる。
「何も返答が無かったので、否定と思ったのでな」
真面目な顔で答える相沢に真一朗は苦笑する。
「いかにも…って台詞だな」
「なんだそれは?」
「相沢らしいって事だ」
「褒め言葉として一応受け取っておこう」
相沢は真一朗の頭に手を乗せ、ポンポンと軽く撫でる。
「!!」
真一朗は顔をガバッと上げると、両目を見開く。
(…反則だろ)
目の前にいるのは、自然な笑みを浮かべている相沢だった。
いつもの、嫌味っぽい笑いでも、作り笑いでも無い、自然な笑みを浮かべている相沢がそこにいた。
真一朗はマジマジと相沢を見つめる。
「どうした?」
ずっと自分の顔を見つめる真一朗のに相沢は目線を合わせて問いかける。
「べっ、別にっ!それより手、どけろよな」
視線が合った途端、真一朗は頬を赤く染めると、顔を隠すかのように首を横に向け相沢の手を頭からどかす。
(何俺、顔赤くしてんだよ〜)
色んな意味の恥ずかしさで真一朗は顔を前に向ける事ができなかった。
相沢はそんな真一朗を見て、心の中が暖かくなる感じがした。
(手放せないな)
内心自分に対し苦笑しながら、何とか自分の方を見て貰いたくて相沢は先程の話題を持ち出した。
「お前はどこかに行きたい所があるのか?但し、人気のない所のみだ」
人気のない所というのは、勿論真一朗を自分の元から離そうと企む人物のいない所という意味でもある。
相沢の台詞に真一朗は再び相沢の方に向き直る。
「行きたい所?」
「そうだ」
自分の方を見ている真一朗に、相沢は心が満たされる感じがした。
「行きたい…所ねぇ〜」
(七海や空達の所なんて論外だし、どっか行きたい所ってあったっけなぁ〜あんま思い出って言っても殆ど探偵業で忙しかったしな〜)
小さく呻りながらも必死に考えるが、思いつかない。
「相沢はどっか行きたい所あるか?」
「私が…か?」
思わぬ真一朗の台詞に相沢の方が今度は驚く。
「相沢はどっか行きたいとか無いのか?」
(考えてみれば相沢とは学校か研究所とか学会とかそういう所でしか見たこと無いし、会った事も無かったもんな)
改めて、過去自分と相沢が接触した場所を思い出しても、いつも必ず背後には『科学』という文字が付いていた事に今更ながら思った。
「………自然」
「え?」
ポツリと呟く相沢に真一朗はキョトンとした表情を向ける。
「………」
だが相沢は再度言う気が無いのか口を開かない。
「…自然って、山にでも行くのか?」
訪ねる真一朗に相沢の唇が開く。
「行きたいのか?」
「俺が聞いてるんだけど…」
呆れ果てた真一朗に相沢は軽く眉間に皺を寄せる。
「真一朗が言えと言ったから言ったまでだ」
「そうだな。まぁ、外に出れば気分転換にもなるし俺は構わないぞ」
悪戯を思いついたような無邪気な笑顔で真一朗は楽しそうに言う。
「お前のそんな顔を見たのは初めてだな」
楽しそうに笑う真一朗を見ながら相沢は感慨深げに誰に言うでもなく呟いた。
「なぁ?今から出かけるのか?」
真一朗は期待に胸膨らませながら相沢に聞く。
「今日はもう遅い。今は夜の7時過ぎだからな」
「へ?もう夜なのか?」
部屋には時計も、もちろん地下なので窓も無いのだ。真一朗が朝や晩などを知る統べも無かった。
「あぁ。行くなら3日後だ」
「……なぁ、朝昼晩がわかるモノくれないか?」
真一朗は真剣な眼差しを相沢に向ける。
「だって3日後って言われても俺には全くわからないんだよな。日にちは別に分からなくてもいいんだ。時間が分かればそれだけでいい」
「………」
いつまでも無言の相沢に真一朗は顔を伏せる。
「3日後午前10時に迎えに来る」
相沢は一言告げると、真一朗の頭を再び、今度は撫でるとそのまま部屋から出ていった。
「10時…ってわかんねーよ。そんなの…」
先程の相沢の台詞に真一朗は憤る。
時間が知りたかったのはただ、何も分からないまま待つのが嫌だっただけ。
何かわかるモノがあればそれだけで待つ楽しみはできるのだ。
この無機質な部屋で退屈を少しでも埋めるモノが欲しかっただけなのだ。
ゆっくりと顔を上げると、視界に見慣れない物体がシーツの上に置いてあった。
「…コレって……」
そこにあったのは腕時計だった。
真一朗は時計を持ち上げると、まだ体温の名残が残っていて微かに温かかった。
「相沢のか?」
ぬくもりがあるということは、腕にしていた時計なのだろう。
「…ったく、変な所で律儀だよな。アイツって」
真一朗はクスクスと笑いながら、ベットの上に横になる。
「あと50時間50分で約束の時間だな」
時計を見つめながら嬉しそうに真一朗呟くのだった。
3日後、相沢の所有するヘリで二人は紅葉を見に山に行きましたとさ。
おしまい。
コメント
相×真水同盟様に送った作品です。(閉鎖されました)
タイトルは「唐突な誘い」という意味です。捻りも何もない率直なタイトルで、もう少し掛詞とか考えた方がいいと思いつつも、思いつきませんでした。