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「…おい、起きろ」 肩を揺すられて、オレは眼を覚ました。 う〜、何だよ。良く寝てたのにさあ…。 ぼんやりする頭に、硬いシートが当たって、お世辞にも爽やかな目覚めとは言い難い。 なんだぁ?シート…? あぁ、そっか。深夜回ってたから、水都に送ってもらってたんだっけ? にしても、寒みぃな。 オレは、鳥肌を立てた腕を擦る。 んんん?何かおかしくねぇか? 良く考えろ、オレ! 今は、6月だ。 それは間違いねぇぞ、うん。 今日は、初夏並みの30度だった。 だけど、今は寒い。 以上、事実確認おわり。 いや、待て待て。現実から眼を逸らすな、オレ! おかしい、変だ。 何で寒いんだよ? それは、朝だからなのか? 確かに周りは、明るいけど朝というよりお昼に近いような…。 オレは恐ろしくて、 眼を閉じたまま暫し硬直する。 考えられるのは…。 推論その@「日中暑かったから、放射冷却現象のせいで寒い」 推論そのA「水都の洒落になんねぇ悪戯(>。<)/」 推論そのB「オレが実は風邪を引いているから」 一番考えられるのは、Bだよな? てか、B希望! @は、有り得なくもないけど、Aは…。 いやいや、まさか。 「Aだ」 ボソリ。 「ぎゃゃゃゃぁぁぁぁっ!!?」 ぞわぞわぞわ――…っっ!! オレは反射的に、セクハラ犯人がいる辺りに拳を振り上げた。 バキッ! 見事にクリーンヒットらしく、 オレの拳には、確実に急所にヒットした感触が伝わる。 そこで、意を決して眼を開けた。 柔らかな陽の光が、頬を滑る。 やっぱりというべきか、水都の車内にオレは居た。 生命の危機に類する場所でないことに、 ほっと胸を撫で下ろす。 でもその後すぐに、 窓の外を目の当たりにして、一瞬オレは言葉を失った。 「………。」 「やっと、目覚めたか…」 隣のシートに埋没していた物体が、嫌味ったらしい微笑をオレに向ける。 試しに殴ってみる。 「ぐわッ!!」 「…――痛てぇ。夢じゃ、ない?」 オレは、呆然と赤くなった手を擦る。 「痛いではないか!」 「うっせぇ!!」 反論する水都に、容赦なく怒鳴って。 頭を抱えながら、愚痴を零す水都に圧し掛かり、 胸倉を掴んで、思いっきり揺すった。 ガクガク。 「何の真似だぁ? ここは何処だ? 吐け!! つーか、オレを帰せ。今すぐにッ!!」 一気に捲くし立てる。 オレは低血圧じゃねぇけど、寝起きは機嫌が悪いんだよ! ブチ切れたオレとは逆に、 見上げる水都の方は、愉快そうな笑みを浮かべている。 それが、一層オレの神経を刺激する。 あと少しで、口から火を吐くんじゃないかってくらい怒りMAXのオレに向かって、 水都は一言。 「……据え膳食わねば男の恥、だろうな…」 「あ?」 何言ってんだよ? 意味を図りかねているオレに、水都は嫌味な笑いひとつ寄越し、 両手を伸ばしてきた。 それで、やっとオレは自分の体勢が非常にマズイことに気付く。 すぐに身の危険を感じて、飛び退こうとしたけど。 オレは水都の太ももを跨いで座って、 水都の方に体重を掛けた体勢だったから、逃げ切れる筈もなくて。 簡単に、両腕に捕らえられてしまった。 「は、離せよっ!」 「嫌だ、と言ったら?」 「なっ?―――…や、ぁめ、ろ」 腰をしっかり掴まれ、局部を水都の脚に擦り付けるように動かされる。 背筋に走る甘い疼きが、徐々に湧き上がってくる。 冗談じゃ、ねぇ!! こんな事やってる場合じゃないんだってば。 オレは、水都を引き剥がそうと渾身の力を込めた。
◇ ◇ ◇
そして、今。 何故かオレは、水都と一緒に山を見上げている。 ううう、新緑が眩しいぜ。 などと遠くを眺め、意味のないことを考えてみる。 どうしてこうなったかについては、深く考えるのは止めておこう…。 「よし、登るぞ」 現実逃避していたオレに、水都は声を掛けてきた。 相手の了解も取らずに、さっさと歩いていく。 ホンットに、自分勝手すぎだ、水都は! はぁ〜、まぁ律儀に水都に付き合ってるオレも変だろうけど。 「はいはい。急かすなっての」 大人しく、水都の後に続く。 とはいえ、しぶしぶ山に入っていったオレも、 すぐに山の魅力に飲まれた。 木漏れ日の散歩道…にしては、傾斜がある。 でも、まさにそんな表現がぴったりかもしれない。 肺一杯に空気を吸い込むと、 清々しい樹の香りを身近に感じられて、かなり嬉しくなる。 山道脇には小さな花や見慣れない植物が次から次へ現れて 全く見飽きることがなかった。 自然ってやっぱ良いよな〜! オレは、少し先を歩くラフな格好の水都の背中を眺めた。 水都がどういう思惑で、オレをここに連れてきたのか知んねぇけど、 もし、ここを好きになってもらうためだったんなら 成功したってことだろうな。 気を直したオレは、さっきから気になっていた事を訊くために 先を行く水都の横に並んだ。 「あのさぁ…今日は平日だろ――アンタ学校は?」 そんなんだよな、さっきまで忘れてたけど。 今日は月曜日で、紛れもなく平日なんだ。 オレはともかく、教師が職場を欠勤するのはどうかと思うぞ? 「夏風邪で休んだ」 は? 風邪で休んだだって? んな、嘘をサラリと言うな――!! クラス単位どころか、学校内ほぼ全員がインフルエンザでダウンしたときだって アンタだけはピンピンしてただろーが…。 オレだって藤守にうつされて珍しく寝込んだから、忘れてないし! アンタが見舞いに来て、ベッドに沈没してるオレを見下ろして一笑したあと、 「馬鹿は風邪を引かないというのは、迷信だったようだな…」 て、失礼なことを言ったんだよ、確か。 まぁ、お見舞いのメロンはおいしく頂いたけどな。 「ついでに、お前も欠席にしておいてやったぞ? お前の場合は風邪では、信憑性がないからな… 理由を考えるのに苦労した…どうだ、俺は優しいだろう。ははは」 「…そ、んな――シン、セツ…いら、ねぇって!」 オレは、途切れ途切れに言葉を紡ぐ。 「どうした? そんなに息を弾まして… イヤラシイことでもしているのかな? そら豆くんはえっちだな…」 むかむかむか。 急に、怪盗416面相の口調は止めろっての! 弾む呼吸を整え、一気に叫ぶ。 「んなこと言ったってなぁ…てめぇの足が速すぎんだよ!!」 さっきから歩くピッチが上がってんぞ? 「自分の足が、トロいとは思い付かないのか?」 誰のせいだよ? ギロリと睨むと、オレの体調不良の犯人はしまったとばかりに 急に話題を逸らした。 「ほら…山頂に着いたぞ」 え? 前方へ視線を転ずると、 上へ上へと伸びていた道がぷっつりと途切れ、突然視界が広がる。 「ッうわぁ、すっっげー―――っ!!」 端まで登ったオレは、思わず歓声を上げた。 目の前に映るのは、どこまでも蒼く透き通った青空。 眼下には、緩やかな緑野が広がっていた。
◇ ◇ ◇
岩のひとつに座って、目を閉じる。 汗をかいた肌に、初夏の風が気持ち良かった。 「…お前に、この風景を見せたかった」 同じようにオレの横に座った水都が、ぽつりと呟く。 「…――うん」 うん、綺麗だった。すごく感動した。 でも。 「なぁ、水都。オレにこの景色見せたかっただけなら、 今日みたいな平日じゃなくても良かったんじゃ…」 ないかと、オレは思うんだけど? 「それは…お前が言ったからだ、昨日――…」 水都にしては、珍しくうろたえた声に驚いて、 オレは隣に座っていた水都の顔をまじまじと見つめる。 (昨日何て言ったっけ、オレ?) 全然わからねぇ…昨日オレが言ったことと、今日の山登りがどう繋がるんだ??? チンプンカンプンなオレを残して、 水都は、握り拳を作ってひとりで白熱している。 「俺も馬鹿だと思っているさ。だがな、俺だって若い奴らには負けん!!」 あ、もしかして。 『若い奴ら』というフレーズ。 思い出した――か…も、しんねぇ。
確か、昨日オレ水都とちょっとした事で喧嘩になって。 『俺以外の奴とベタベタされるのは不愉快だ』 『なッ!? 何だよ、またそれか? オレが好きな奴誰かわかってて、それ言ってんのか?』 『ああ。だが、一緒に遊ぶのなら俺とでも出来るだろう。 それにお前こそ、俺が「羽柴空」に執着していることを知らない訳でも有るまい ……それとも、俺の忍耐力を試しているのか?』 『あああ、もう! あいつ等とアンタは違う! 今だってアンタと一緒に居るじゃん。あいつ等よりいっぱい…。 オレだって、少しくらい別の奴と遊びてぇもん。』 『…俺より別の奴を取るのか? 俺よりあいつ等の方が勝っているとでも?』 いやいや、なんでそこで熱くなるかな? 勢いに押されつつ、 でもここで押し切られたら後々困るのはわかってるから 何とか水都が納得する理由を探す。 でも何て答えればいいんだよ!? 焦ると、余計パニックになっちまう。 水都には、適当な事言うと後が怖いから。 よ〜く、考えろオレ。 あいつ等にあって、水都には無い物…ていうと。 金、車…金銭的なモノは全部水都が持ってるし。 う〜、思い浮かばない。 嫉妬深くて、鬼畜で、変態でつける薬がないほど最低の性格してんのに、 経済的な面とか、容姿の面だけ見れば……非の打ち所がない、んだよなぁ。 あ、そうだ。 これなんかいいかもしんねぇ。 『何処がって…若さ? あいつ等とオレ同い年だしな〜 ジェネレーションギャップないし?』 てか、それくらいしか、適わないのが悔しい。 それで…そのあと、うやむやにHに雪崩れ込んで その話は終わったんで、忘れてた。
はぁ〜。 そんときは、良い答えだと思ったんだけどなぁ…。 まさか、「若さ」→水都にはない=若くない(年寄り!?) しかも、もっと飛躍して。 『若くない=精力がない』ってなるとは…ガックリ。 考え方がこども過ぎるぞ! 「いや、まさかお前が満足していないだなんて思ってもみなくてな… 気絶するほどだったが、足りなかったとはな」 なななな…何の冗談だよ? どさり。 ひぃぃぃぃぃぃッ。 お、押し倒されちまった!! 「こういう行為はさ、山を…穢す、って。言うじゃんか!? なぁ水都止め…んぅ、よう…ぜ?」 な、な!と同意を求めても、当然に黙殺された。 最後の抵抗とばかりに唸っているオレは首筋を執拗に舐められ、 次第に息が上がってくる。 ぬめぬめした舌が這っていくと、その辺りの膚がじんわり熱を帯びていく。 薄いTシャツ越しに、胸の突起を引っ掻かれ、 過剰に、身体が震えた。 何でだよっ? アホみたいに感じちまう身体が、 今ほど恨めしく思ったことはなかった。 擦られ、押し潰されている内に、 制止しようと水都の服を掴んでいた手から力が抜けていく。 このままだと、本当に犯やれちまう…昨日の疲れがまだ残ってんのに 今されたら、元気が取り得のオレでもマジ死んじまうっての! 「んだよっ!?…が来るって、人が!!」 ほら、だから止めようぜ? 眼で強く訴えるオレに、水都はひどく優しい微笑をくれた。 な、なんだ? 嫌な予感がするのは、気のせいであってほしいぞ! そう願うオレの想いも空しく。 「あぁ、大丈夫だ…駐車場には誰も居なかった。 ついでに言わせて貰えば、途中に休憩したポイント…気が付いたか? あそこからは、駐車場が一望出来るんだが、そのとき誰も居なかった。 ということは、だ。もしその後、誰かが駐車場まで来ても、 ここまで登ってくるのに普通の足で、2時間は掛かる。 結果、俺達はここでゆっくり休憩できる――寸法なのだが?」 水都は、絶望的な状況をわかりやすく説明してくれた。 つまり、ここで犯るんだな? そんなん――! 「じょ、冗談じゃね――!! 青姦なんかヤダ! 絶対ヤだってのっ!おんなじやるなら、ベッドのほうがいい!」 「そうか、では帰るか」 オレの言葉に、急に水都は態度を変えた。 オレの上から退くと、身体に力の入らないオレを抱き上げる。 甲斐甲斐しくも、髪についた木の葉までとってくれた。 「ん、わりぃ…」 「いや?」 水都の笑顔が眼に痛い。 えっとぉ…あああ、もしかしなくても自爆スイッチ自分で押したんだな。 はぁぁ〜なにやってんだろうな、オレ。
◇ ◇ ◇
情けなくも体力の尽きたオレは、 大人しく水都に負ぶわれ、下山していた。 高校生にもなって、恥かしいったら…ホント穴があったら入りたいぜ。 「実は、この辺で良いホテルがあるんだ。 ほかにリクエストがあるなら受けるが…」 他にって――あのなぁホテル泊まりたいなんて、オレは言ってないっての。 なんだかな…水都はホンットにマメだよな。 リクエストかぁ…。 一方的に水都の思惑通りってのは、やっぱムカツクし。 「じゃあ、水都!」 オレは、遠く山の稜線を眼で追いながら叫んだ。 「なんだ?」 律儀に、水都も問い返してくれる。 「オレ、ムチャクチャ肉喰いてぇ」 「わかった。」 「あ、そうだ水都!」 「次はなんだ?」 「オレ海行きたい!! 泳ぐ!!」 「う、海? ここには無いな…一級河川なら、何とか」 「…―――あのさ、水都」 「まだあるのか?」 「今日、すげー楽しかった!!…サンキューな」 「気にするな。礼は今夜たっぷり頂く」 「…ばか。ま、そんなアンタが好きなんだけどな」 「何て言った? 俺の悪口か?」 「そうだよ!」 オレは、水都の背中に頬を寄せた。 静かに双眸を閉ざすと、自分の者速い鼓動を感じる。
今日くらいアンタの我侭を叶えてやるよ。 たくさん甘えさせてやるよ。 オレわかってるから。 アンタなりの不器用な愛し方。 最近けっこう癖になってきたし?
本当にオレの恋人はいじっぱりなんだから!!
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| しあんさんのHPでまたまたキリバンGETして頂きました!ギャフ!!もうラブラブだよ〜やっぱりラブラブな水都×空もいいですv読んでる最中はもう頬が緩みっぱなしでしたvしかもお互いゾッコンだし(笑)密かに416と真一朗の人格も混ざっていてなんともオイシイ話が読めて幸せいっぱいです。 しあんさん本当にありがとうございます♪ |