星宴
ゴーン、ゴーンと断続的に聞こえる除夜の鐘の音を聞きながら、オレはソファに押さえつけられたまま、水都を見上げていた。
そう、水都を、だ。兄ちゃんではなく。
正月に藤守と一緒にマンションに帰ってきたのはいいのだが…。
「な、水都」
「なんだ…?」
水都はオレの服を脱がせようとしながらも、ちゃんと反応を示してくれた。
ただし、オレの方を見ようともしないのだが。
「なに、してんだ…」
「分からないのか?」
「…オレの服脱がせてる…」
「なんだ、分かっているのではないか」
そう納得すると、水都は再び行為を続行しようとするが、それをオレは邪魔するように腕を掴んだ。
途端に睨まれたけど…。
「なんだ…」
「新年早々なに考えてんだよ」
「ヤること、だろう?」
ニヤリ、と笑いながら水都は言い切った。
そう、言い切りやがった。
信じられねぇ…。
「考え事とは余裕、だな」
「へ…、ぅわっ!」
気がついたらズボンにまで手を掛けられていたけれど、ふと水都の背後が視界に入った。
「み、みな…ッ」
「ん?」
「うし…」
「し〜ん〜い〜ち〜ろ〜う〜さ〜ん〜?」
そこには般若の形相の七海ちゃんと藤守が立っていた。
って、マジで怖いんですけど…。
水都も慌てて振り返ったが、それよりも早く、七海ちゃんが手に持っていた2リットルのペットボトルで殴られていた。…七海ちゃん、いくらなんでもそれは死ぬと思うんだけど…。
ボコッ、と言う音と共に、水都はオレの上に倒れこんできた。
それを藤守はまるで、ゴミでも払うみたいに水都をどかした。
「空くん、何もされてませんよね?」
「う…うん」
まだ、大丈夫です…。水都は大丈夫じゃなさそうだけど…。
ちらりと水都の方に視線をやったら、藤守は酷く冷たい声で
「自業自得なんだよ、真一朗お兄ちゃんは」
と言った。
あの…。なんだか二人ともすっごく怖いんですけど…。
「まったく、私たちをこんな時間に買い物に行かせるから、何かと思いましたよ」
「ホント。油断ならないよね」
ニコニコ笑いながら言ってる二人なんだけど、気のせいか、殺気立ってる気がする…。
「空くんを独り占めしようだなんて100年早い、ですね」
「抜け駆け禁止なんて言ったのは真一朗お兄ちゃんなのにね」
「は?」
何の話をしてんだ?
疑問に思って七海ちゃんを見上げたら、にっこり笑われた。
「空くんは気にしなくていいんですよ」
「そうそう。くーちゃんは気にしなくていいんだよ」
いや、そういわれても、どう考えてもオレも当事者、だよなぁ…。
追求しても、答えてくれそうに無いけど…。
「ほら、真一朗。何時までもそんなところで寝ていたら、邪魔だよ」
「どいてよね、真一朗おにいちゃん」
ゲシゲシと蹴られてる水都…てか、兄ちゃんがだんだん哀れになってきた。けど、助けようとしたら藤守に止められたし。
ごめん、兄ちゃん。
「ってー」
「自業自得です」
ようやく起きた兄ちゃんに、七海ちゃんの冷たい一言。
うわ、容赦ねー。
すっかり髪形の崩れた兄ちゃんは、ちょっとすねた顔をして七海ちゃんを睨んでた。けど、七海ちゃんの笑顔を見て、慌てて目を逸らしてた。
七海ちゃんの笑顔って、時々怖ぇーんだよな…。
「ほら、頼まれたもの買ってきたんだからね」
手に持っていた袋を乱暴にテーブルに置く藤守。
中に入っていたのは、ビールとおつまみだった。
…もうビール無かったのか…?
「ったく、ひっでーな」
それでも兄ちゃんは袋の中をごそごそと漁っていた。
そしてふと、顔を上げる。
「足りなくね?」
「何がです?」
にっこりと笑う七海ちゃん。黙ったのは兄ちゃんだった。
何を頼んだんだか…。
「あ、兄ちゃん」
オレはくいくい、と兄ちゃんの袖を引っ張ると、時計を指差した。
つられて藤守と七海ちゃんも時計に目を向けた。
カチ、と時計の針が零時を指す。
「ハッピーニューイヤー!!」
オレが声を上げると、藤守と七海ちゃんが苦笑した。
そしてまず答えたのは藤守だった。
「明けましておめでとう」
「おめでとうございます」
次は七海ちゃんだった。
兄ちゃんもビールの缶を片手に、おめでとー、なんて言ってる。って、早速開けたんだ…。
七海ちゃんも缶に手を伸ばしていた。
藤守はといえば、ジュースのペットボトルを手に取っていた。
「なんだ、藤守はのまねーの?」
「俺はいい」
ぷい、とそっぽを向いた藤守に、オレはははーん、と納得した。
「藤守、のめねーんだ」
「なっ! ビールくらい飲めるよっ!!」
振り返った藤守は真っ赤な顔をして、そして袋の中のビールに手を伸ばした。
そして…。
「ふ、藤守くん…」
「ナオくん…?」
「げ…」
冗談で煽ったとはいえ、まさか藤守…。ビールを一気飲みして、どうだと言わんばかりの目でオレを振り返った。
が、かなり顔が赤い。
目も据わってる。
まさか…、藤守って下戸…?
「ろーら、のめるらろっ!」
しかも呂律まで回ってないし…。
どうしようかと七海ちゃんに目をやったら、視線を逸らされた。
兄ちゃんもニヤニヤ眺めてるだけだし…。
「はしば〜!!」
「え、ぅわッ!!」
「おれいがいをみるなー」
「へ?」
突然藤守に押し倒されたと思ったら、そのまま藤守の顔が近くなる。
ちょっと待て…。
オレが押し倒される立場なのか?! じゃ無くて…ッ!!
「藤守ッ!」
「おーっと、抜け駆けは禁止、だろ?」
「駄目ですよ、酔った勢いでも」
兄ちゃんと七海ちゃんが、同時に藤守をオレから引き剥がした。
引き剥がされた藤守は酷く残念そうな顔をしていたけど…。
「なんだ…。酔っ払いでも駄目なんだ」
演技ですか…。そうですか…。
「駄目ですよ」
「そうそう」
「それを真一朗お兄ちゃんが言うの?」
相変わらず顔は赤いけど、藤守の呂律はちゃんと回ってるし、酔ってる感じもしない。
くそー、まさかオレ、騙された?!
てか、どう考えても騙されたんだよな…。
「でも、くーちゃんの焦った顔、可愛かったなー」
……か、可愛い!?
「だよなー。空ってばすぐに真っ赤になるもんなー」
…何納得してんだよ…。
「えぇ、そうゆうところは昔と変わりませんよねー」
…変わらないって、何だよ…。
三人の会話を聞いていたら、オレはどんどん情けなくなってきて、一人でちびちびとビールを飲むことにした。
「ちくしょー、今に見てろよーッ!!」
「くーちゃん?」
「空?」
「羽柴くん?」
「あ…」
やっべー、声に出てたのかっ!
オレの声に三人が不思議そうな顔をして振り返ったと思ったら、くすくすと笑い出した。
「やっぱ空は可愛いなー♪」
「ほんとうですね」
「くーちゃん、好きだよー」
ぎゅー、と抱きついてきた兄ちゃんと藤守に挟まれて、オレは身動きが取れなくなっていた。
いつの間にか除夜の鐘の音はやんでいた。
窓の外から、星明りが差し込む。
新しい年が、始まった。
コメント
大変お待たせいたしました(土下座)
正月用SS、ここで完成とさせていただきます。
うぅ、今回も相変わらずの短さ…。正月くらいいつもの倍くらいの量を書きたかったのですが…。
これ以上時間を書けたら、年賀状でなくなってしまいますので…(吐血)
平にご容赦をー(涙)
しかも予告と違って、水都×空にはなりませんでした…。
変わりにハーレム…。
この小説は差し上げた皆様にはフリー小説、という扱いをさせていただきます。
ですので、煮るなり焼くなり、お好きなように扱ってくださいませ。
サイトへの転載も構いませんので。…しなくてももちろん可、ですがw
ではでは、今年も宜しくお願いいたします。
皆様にとってよい一年となりますように…†
コメント
かなえさんから年賀SSを頂きました〜空がモテモテ!!
やっぱり直は攻だと私も思っていたのでちょっと嬉しかったです(笑)七海ちゃんも相変わらず最強ですし、何より水都先生が出てきてくれたのが嬉しかった(水空好きなので)勿論、真一朗さんも好きですが、個人的には先生の方がちょっと好き度が上です(汗)
年末年始らしく明るい、ほのぼのしたお話が読めてよかったです。
かなえさん、ありがとうございますv本年も仲良くしてください(ペコリ)