AIで普通の動画を3D動画に変換する

初詣に行く前に

 

 

 

 

 

 それは新年も明け、手塚がリョーマの家の玄関で待っている時のこと。

 何やら奥から響いてくるのは足音というには賑やか過ぎる―――駆け足だろうか?

<……?>

 

 ダッダッダッダッダ。

 ほぁらぁーー。……ドテッ!

 ダッダッダッダッダ。バタバタバタ!

 

 しばらく不安になりながらも玄関前の廊下の角を見つめていれば。そこから慌しく駆けて来た小さな姿を見て手塚はようやく表情を柔らかいものにした。

「ぶちょー!!」

 ハスキーでいて甘さがかった声の彼は相変わらず前役職名で呼びかけてきた。

 ぼすっと体当たりしてくる彼をしっかり腕に抱き止めて「元気がいいな」と笑えば「へへ」と照れ笑いを見せてきたリョーマだ。

「明けましておめでとう、リョーマ」

 手塚がきちんと新年の挨拶をしてくれる。

 あ、とリョーマも思い出すが手塚の腕の中から抜け出す気はないらしい。

 何やらイタズラでも思いついたような顔でふふ、と笑って。

「A Happy New Year !!」

 流石はともいうべきな流暢な英語で言ったかと思えばすかさず手塚の頬にちゅっと音がするようなキス。

 された瞬間手塚はやられた、とでも言いたげな苦笑いを浮かべる。

 こちらから普通に口付けを仕掛ければ恥ずかしがって仕方ない恋人からの可愛らしい挨拶。自分からするキスならば平気なのをいいことにしてやられた。

「こら…」

「だって、向こうに居た時は母さんとか近所のおばさんだとかがこうしてくれたもん」

 先手必勝の手を使った後はぎゅーっと手塚に抱きつくだけ。リョーマが上がり口に立っている分身長差はは普段ほど激しくない。難なく抱きついてくるリョーマを容易にはがすこともできないのを口実に自らもまたその背中に背を回す。

 昨日の大晦日にもリョーマとは会った。プチデートみたいなものだ。それでも家族と団欒を過ごすように早めの帰宅をすすめた手塚にリョーマはどこかつまらなげで。さみしい、を思いきり顔に出してきたリョーマを説き伏せて宥めるのはかなり時間を要した。

 しかし明日も会えるだろう?と手塚が言ってくれるのを聞くと一転、びっくりして。

『初詣だ。一緒に行こう』

 とはじめからその算段はしていたんだと言いながら誘えば。

『ホントに?』

 と思ってもいなかったことなので顔を輝かせて。

 じゃあ迎えに来て、と言うリョーマの願い通り手塚はこうして越前家にやってきた。時間は現在10時半。寝坊魔な恋人を思えばこれが妥当な所だろう。

「リョーマ。いいのか?初詣、行きたいんだろう?」

 さり気なく。リョーマを抱きしめていたい気持ちは隠しながら本来の目的を匂わせればぴくりと身動ぎする。その様子はまるで猫耳を立てた仔猫のよう。もしかしたらしっぽもゆらゆら揺れているかもしれない。

「……行きたいけどぉ〜」

 せっかく邪魔なのを退かしてきたのに。

 ぽそり呟くリョーマに手塚は意味がわからないような顔をしてきた。

「リョーマ?」

「ん…、あのね。ドアチャイムが鳴った途端オヤジがね―――」

 

 

『お!手塚が来たな。よっしゃ、是非とも手合わせしてやるか!!』

『ちょっと!ぶちょーはオレを迎えに来たの!!引っ込んでよっ!!』

 

 

 玄関へ向かって父子が廊下を猛ダッシュ。貴重な手塚との時間を南次郎に没収されてたまるかとリョーマは愛猫・カルピンの大好きなねこじゃらしを南次郎の目の前に落としてやったのだ。当然カルピンは遊んでくれるのかと喜び勇んで駆けてくる。南次郎もリョーマ同様カルピンは可愛いから何とか避けようとしてものすごい音と共に廊下の壁にぶつかりあえなく撃沈。

 少々ずるい手だが南次郎ならカルピンに怪我をさせないことはわかっていた。共に猫好きだから。で、ついでに言うと、南次郎なら怪我をするかもしれないとわかってはいたが―――まあいいか、とそれはあっさりと気にしなかった。母親が南次郎へ下すお仕置きビンタに比べればまだ生ぬるい方だろう。

 

 

「―――ってこと。まだそこの見えない廊下の向こうで伸びてる」

「…………………そうか」

 新年早々すごい話を聞いたなと手塚は思ってしまった。待っている間のあの慌しさの正体はそういうことだったのかと。

「だってオレだってぶちょーと試合したいのに!」

 リョーマは真面目に南次郎の言ったことを思い返している。その点はあまりに素直で可笑しくなってくる。

<リョーマは南次郎さんのヤキモチってことに気付いていないんだな……>

 夏に恋人同士になってからは時々リョーマの家にも遊びに行くようになった。南次郎はその性格の大らかさと物事に動じない風体で、手塚とリョーマの間柄をさり気なく悟りニヤリと笑った。

『ま、あんな我侭ボーズだがな。……頼むな?』

 手塚だけに聞き取れるような言葉まで頂いて、手塚はただ真剣な顔で深く一礼したのだ……。

 見守ってやるさ。

 そんな南次郎の心意気は見事だ。だがあまりに父親より恋人を優先したがる息子に近頃ではヤキモチという本音を出してきたらしい。手塚のわかっている辺りではまだ幾つかその手の話はあるのだが、それもリョーマは知らないことだ。

 リョーマは父親が言った言葉をそのまま信じているけれど手塚にはわかってしまう。愛情の種類は違えど同じ人を大事に想っているのだから。

<素直にさみしいと言うような人ではないのだろう……難しいな>

 恋人のリョーマはやっと13歳になったばかり。手塚でさえまだ幼いと思っているのだ。南次郎からすればまだまだ子離れしたくない気持ちで一杯のはず。

<無理ないな。可愛いのは本当だから>

 惚気に等しい。愛しいという想いも含めて手塚は真摯な気持ちで呟いた。

 さて…、と手塚はとりあえずの応急処置を考えた。

「リョーマ。これから出掛けるが南次郎さんに何かお土産でも買ってこようか」

「?どうして?」

「お煎餅とかお饅頭好きなんだったな。初詣帰りに近くのお店で買っていってやれば、きっと喜ぶ」

 どうして急にそんなことを言い出すのかとリョーマには不思議だったが手塚が言うのなら何となくそれもいいかなという気にさせられる。

「ウン。オヤジってあーんなだけど味には結構ウルサイんだよ。でも和菓子の好みはオレも一緒だしさ、いっつも取り合いになっちゃう」

 その光景が容易に思い浮かんで手塚は微笑んだ。

 普段からその素行の怪しさに常に文句の上がる父親だがそれだけ接する機会が多いということだ。年の割にクラスでは大人びた印象のリョーマが毎日どれだけ父親とドタバタ争っているのかと思えばずいぶんと愉快なことだろう。まあ、今しがたのリョーマの告白が確かな証拠となりそうだが。

「だからね」

「うん?」

「一緒に選んでくれる……?もちろん目当ての店はオレが好きな和菓子屋さんね。お煎餅は特にっていう店はないから迷うけど」

 ぶちょー、いいでしょ?

 手塚が甘いものを好まないのはこの際置いておいて。リョーマは手塚へ強請った。強請るというほど内容は些細なことだけれど。

 

 ―――ぶちょー。

 

 ………リョーマが手塚を呼ぶ時の口調が「甘えてるよな」と親友に笑いながら指摘されたのは夏が終ってから。

 大石曰く。

『現部長である桃を呼ぶ時とは偉い違いだな。同じ“部長”でもこうも違うんだなって皆で言ってたんだ』

 いつまでも桃代を先輩付けで呼ぶわけにもいかないだろうと指導したのは自分だった。

 リョーマはわかったと頷いてくれたけれど。でも手塚を名前で呼ぶのはまだ出来そうもないからヤダ、と言う。密かに名前で呼んで欲しいという願いも言い出せず。

 終いには。

『ぶちょーはぶちょーだもん』

 と恥ずかしがられれば手塚は折れるしかない。所詮は惚れた弱みだ。

 大石の言う違い。それは手塚にもわかっている。誰だって恋人に呼び掛ける時の声音は甘くて柔らかいものだから。それに応える手塚も同様だ。

 ふとそんなことを思い出しながら手塚はリョーマへ頷いて見せた。

「ああ。―――さ、ちゃんとコートを着て来い。今日は暖かい日だが風邪を引いてはいけないからな」

「はぁーい」

 ポンポンとリョーマの背中を叩いてやって促した。

 来る時の足音とは裏腹にパタパタと小気味いい音を耳に聞きながら小さい声で手塚が呟く。

 

 

「今日もリョーマをお借りしますから」

 

 

 自分の恋人はまだまだ幼い。父親の遠回しな愛情には気付かない。

 姿の見えない相手に声が届かないのを承知の上で。

 行く行くはずっと傍に置いておくつもりだ。しかしそれはまた改めて言えばいいこと。多分その時の方が関門は高いのだろうなと覚悟はしている。認めてくれてるのに今でさえコレなのだ。手塚は遠い未来を思い描いては苦笑した。

 

 

 

 

 

「ぶちょーお待たせー」

「じゃあ行くか」

 身支度の整ったリョーマと共に越前家の表玄関を出る。外はまだいい天気だ。これなら帰るまでに天候も持つだろう。

 空を見上げるのに立ち止まった手塚にリョーマが「ぶちょー」と呼んだ。

「まだ午前中だから初詣の人、いっぱい来るよね」

「そうだな」

 だから境内に入ったら手を繋がないとはぐれてしまうなと思っている手塚にリョーマが。

 

「……手、繋いでいい?」

「―――」

 

 今日は些か驚かされることばかりだ。リョーマから頬にキスをもらったばかりじゃなく手を繋ぎたいとの誘い。

 リョーマはまだまだ子供で。時には大人びた表情こそすれ、手塚からのキスだけでも緊張して恥ずかしがる。テニスをしている時の姿とは打って変わったような無邪気なお子様なのだ。

 もっとも軽いスキンシップのようなキスなら時たま、先ほどみたいに不意にしてくるので普段との兼ね合いが尚難しい。

 嬉しいけれど、困る。

 抱きしめられることは好きな恋人。温もりを欲しがる。

 ワンステップ先へ進むことは長い目で見ている手塚なので覚悟の上だが、不意打ちには弱い。鉄壁の理性が揺らぎそうになって……。

「ぶちょー?」

「―――そうだな。神社に着いたら、だぞ?」

「ウン」

 手塚からの言質もとってリョーマは嬉しそうだ。ほわんとした心からの笑顔に手塚も幸せに思う。

 自分だけにしか見せない素顔の笑みを向けられて素直に幸せを感じられるこの瞬間。

 こんなに誰かを好きになれることがよかったと思わずにはいられないほど。

<もう少しこのままで。リョーマとはゆっくりと前に進んでいきたい>

 贅沢過ぎることだ。南次郎からの信頼も手塚には大切なもの。 

<やれやれ。俺もまだまだだな……>

 リョーマと神社へ向かう道のり。手塚は思う以上にリョーマに惚れている己を改めて知って快い気持ちになった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あーあ。ウチのボーズはいい男をつかまえたよなあ。な、カルピン?」

「ほぁらぁーー」

 

 父の心子知らず。リョーマとの競争に敗れた南次郎は爽快な顔付きで廊下にごろんと横になっていた。

 どこからこっそり二人の様子を眺めていたのだか。

 南次郎は参ったねえ、とぼやきながらねこじゃらしでカルピンを遊ばせている。

「ま。俺様の子供だからな。見る目はあるんだ」

 ヤキモチ妬いたり息子自慢したりと忙しい南次郎である。

 だがしかし。

 

「願わくばあまり早いところお嫁には行って欲しくないんだがな」

 

 と、ぼやく南次郎にカルピンは相槌を打つようにもう一鳴きして。

「おお、そうだろ!そうだよな、カルピン!」

 と嬉しげに声を上げた南次郎がいたというのはこっそりこの時の様子を見てしまった倫子と菜々子の証言であったそうな……。

 

 

 

 

 

END

 

 

 

 

 

お正月小説…一応(笑)

王様王子サマ設定。でもこれ単体だけでも読めるかとは思います。

二人のことは南パパも認めてますよ…、ということで。

しかしこの王子には未来の旦那もパパも悩みどころ満載です(笑)

 

ところでこのお話フリーになっております。

へっぽこなお話ですがこんなのでも欲しいと言って下さる方はどうぞお持ち帰りくださいませ。

もしも。もしもなのですが(笑)サイトへアップして下さる管理人様はその際はBBS等に一言書いて下さると助かります。

レイアウトは御自由にどうぞ。でも改行変更は御遠慮願いますね

こんな駄文ですが、私からの感謝とお礼を込めて。

塚リョ万歳!o(^ー^)o

 

 

 

コメント

夏生さんから年賀SSを頂きました〜年賀状を押しつけ状態だったのにも関わらず、こんなに私好みの素敵過ぎなSSを貰えて正直ラッキーです!

フリーという勿体なくも素晴らしい言葉もあり、即お持ち帰りを決めました!読んでる最中…顔絶対にニヤケてたし(笑)

こちらこそ、本年も宜しくお願いしますv

夏生さんのサイト「Sweet Garden」にはコチラから行けます。