AIで楽曲を楽器やボーカルに分離する





確かに予兆はありました。
オレの耳には、届かない狭い部屋の外で、
警告音は鳴り響いていた。
そう。
何も起こらぬうちに、
彼から離れることは可能だったかもしれない。
けれど、彼の存在はオレのなかで
すでに無視できないほどに、大きくなりつつありました。
お互いを支えあうことを忘れ、
オレたちは闇雲に迷走し、傷付け合う道を選びました。
永遠に続くかも知れぬ迷宮の中で――……。


言えない言葉〜Open SESAME


「はぁ〜。終わったぜ、水都!」
最後のプリントの束をホッチキスで止めて、
オレは水都に声を掛けた。
「…――ああ、もう帰っていいぞ」
水都は書類に目を落としたまま、
オレにそう告げる。
何だよ、その態度は?
全くヤな感じだぜ…まぁ、帰宅のお許しも出たし、
さっさと帰るか。
って、もう6時になるじゃん…早く帰んねぇと、今日の夕食はオレの好物だったハズ。
オレは慌てて完成したプリントの束を来客用の机に置く。
急いで帰る準備をし出したオレに、
「羽柴。明日…休みだったな?」
さっきと同じ体勢で、水都は確認するように言った。
「あ、うん。そう……だけど?」
何だよ?
オレの不安そうな声に、苦笑を漏らしながら。
「じゃあ、夜11時にここに来い」
えっとぉ……。
命令形…ってことは、オレには拒否権つーもんはないワケだな?
はぁ。



疲れた身体を引き摺りながら、寮に帰ると。
この時間帯だったら、みんな夕飯済んでる頃なのに。
今日は偶然にも、祭と藤守も今帰ったとこだったらしく、二人とも制服姿だった。
オレたちは連れ立って、食堂へ向った。
食堂に居たほとんどの寮生は、
すでに夕飯を終えて、食堂の真ん中にあるテレビを観に集まった奴らだった。
オレたちは自然と、そいつらとは反対側の疎らに空いた席に座る。
え〜と、今日のメニューはっと…何々?
カツカレーと豚汁+杏仁豆腐…お、やっぱオレの好物じゃん!
うーん、美味そうだ。
しかも、みんなと一緒に食べると、不思議に美味しさが増大するんだよなぁ。
さてと、みんな席に着いたことだし、食べることにすっか!!

「…――空ったら、聞いてるの?」
んあ?
夢中で食べていたオレは、祭に声掛けられて顔を上げた。
「祭ちゃん、駄目だよ。食べてるときの羽柴に何か言っても聞いてないって」
何だとぉ!
箸を銜えたまんま、上目で藤守を睨む。
「だって、本当のことじゃない」
ま、否定はしないけど…何かムカつく。
オレがそんなことを思ってるうちに、二人はさっさと夕飯を終わらせて、
「んじゃ、先帰ってるからね〜。色々やる事あるからさ」
部屋に戻っていっちまった。
ちぇ…良いよな、あいつらはラヴラブでさ〜。
「僕たち付き合い始めたんだ」
そう告白されて吃驚したのは、ついこないだのこと。
最初は、祭流のキワドイ冗談かと思ってた、けど。
再会してから今まで、すっげぇ憎らしい奴にしか見えなかった藤守が、
最近、妙に可愛く見えるようになってんのは
どうやらオレの錯覚だけじゃないらしく、学校でも噂になってるみたいだ。
藤守が今まで周囲に張り巡らしてたバリケードは、
一番近くに居たオレには、解けなかった。
けど、祭には出来たんだな…。
実際、祭と一緒に居るときの藤守は良く笑ってて。
その祭も何だか、藤守と一緒だと頼りになる男に見える。
それ見て、ああ二人とも付き合ってるんだなぁって実感出来た。
お互いを大事に想ってるのが、言われなくても感じられたんだ。
何て表現していいのか分かんねぇけど、
そんな二人見てっと、オレの心ん中までじんわり温かくなるんだ、不思議とな。
だからさホント、ふたりには幸せになって欲しいって思ってる。
などと、色々考えてる間に、
オレの貴重な時間は、瞬く間に過ぎていってたらしい。
何気なく壁にかかった古びた時計に眼を走らせると、
思ったより時間が経過してることに、吃驚する。
おっと、もうこんな時間だ。
やっべー、さっさとしねぇと。
慌ててご飯を詰め込んで、
オレは急いで七海ちゃんとこに外泊の許可を貰いに行った。


祭にCDを借りようと、部屋に寄ってみると、
藤守と祭が2人で、ヌイグルミや服をポリ袋に詰めてる最中だった。
「ん? 何やってんだぁ?」
「あ、空。おかえり〜。いや、そろそろ衣替えの時期だから、
もう着ない服を捨てるついでに要らない物も…と思ってさ」
「そっか、もうそんな季節になんのか…」
毎日が忙し過ぎて、そんなこと気にもしてなかったけど。
最近、暖かくなってきたし。
そうか、もうすぐ夏になんのか…。
春が、終わる。
確か、水都との関係が始まったのも、今くらいの時期だったっけ?
てことは、もうすぐ一年経つ筈なんだけど、どーもそんな気がしねぇ。
何でだろ?
「空も早くしなきゃダメだよ?面倒くさがってると
去年みたいに、着る服がな〜いって騒ぐ羽目になっちゃうよ?」
「わぁってるよ!!」
う、うるせいやい…。
確かに、去年はそんな風に騒いだけどさ。
あれは、不可抗力つーか、色々やる事が重なってる内に
着るもんがなくなてて…あああ、恥かしい過去を思い出せんなよっ!
って、あれ?
オレは、藤守の手元に釘付けになった。
「藤守、それお前の『お気に』だったじゃん?」
昨日オレが触ろうとしたら、汚い手で触んなぁ!!って怒鳴ったくせに。
「ん〜、そうだったんだけど…でも色飽きちゃったし。
また新しいの買うからいいや」
「そうだね…この辺り汚れてるから、取り変え時かもね」
「――っ!?」
笑いながら祭たちは、また作業に没頭していったけど。
オレは、その場で、縫い止められちまったみたいに
動けなくなっていた。
藤守、祭…二人とも今何て言ったんだ?

『飽きちゃったから――…』
『汚れてるから――…』

モノを捨てる。

その他愛無い一言に。
どくん、と心臓を鷲掴みされた…ような。
何で?
呼吸が苦しい。
オレの心の最奥を、徐々に冷たく凍らせていく正体。
オレは、知ってる。
近しいその誰かの言葉に重なって…ああ、それは。
『羽柴…お前は、オレのモノだ――』

水都、アンタか?

なぁそれって、どういう意味?
オレもそこら辺にあるモノと同じなのかよ?
だったら。
じゃあ、オレもいつか…そうなんの?
水都に捨てられんの?
そんなの――…ヤ、だよ。
「……――ッ!?」
おかしな違和感に、オレは巡らせていた思考を急停止させる。
今、何考えてた?
『嫌』ってなんだよッ?
どうして…嫌だって思ったんだろ?
アイツから解放されたいってのがオレの望みなのに、な。 
混乱したオレは、心を落ち着かせようと余所事に意識を向けた。
水都という人物の再認識。
表の顔は、オレのクラスの数学教師。
裏では、傲慢で、神経質で、エゴイスト。それからサド、だよな?
オレは、水都のことをどういう風に思ってたっけ?
確か。
最初の頃には「モノ扱い」されることが、我慢ならなかったんだ。
じゃあ、今はどうなんだ?
自分より体温の低い身体を重ねることが日常化してしまった、今は?
水都を気になり始めてるんじゃないか?
オレは、自分が導き出しかけた先にある
感情の正体に、愕然とする。

「…空? どうしたの、顔色悪いよ?」
「え? あー、何でもねぇよ。オレ自分の部屋に帰るわ」
「でも…」
「じゃあな」
この場に居たら。
この二人を見ていたら、もう後戻り出来ないような気がした。
それ以上、脳裏に浮かぶ感情の正体を考えるのが怖くなったオレは、
半ば逃げ出すように、祭の部屋を後にした。

部屋に駆け込み、布団を被る。
自分では、どうすることも出来ない震える身体を抱きしめた。
なんだよ、これ?
こんなことで、動揺すんな…震え、止まれ。止まれ……!
藤守の言った台詞が、消えずにいつまでも耳に残っていた。
『もう、飽きちゃったし――…』
何度も何度も繰り返し、頭ん中掻き回されてる…みたいで。
「気持ち悪ぃ――……」
暗い部屋の中。
独白は、誰の耳にも入らずに溶けて消えた。

ピーピーピー…。

セットしていた腕時計が、予定の時刻を知らせている。
「行かなきゃ…」
そうだ。早く水都に会いに行かない、と。
オレは急いで、学校へ向かった。


数学教室に明かりは、灯っていなかった。
水都、まだ来てねぇのか?
それに何故かほっとしながら、
カラカラと扉を開けて、オレは手探りで照明のスイッチを探る。
その手を、ぎゅっと掴まれた。
「…――ッ!? ギャっんんむぐ」
思わず叫びそうになった口元を、大きな手で塞がれる。
吃驚したオレは、咄嗟にその手を引き剥がそうと、ジタバタ暴れた。
すると、今度は背中から抱きすくめられる。
「騒ぐな…私だ」
するりと低い声音に囁かれ、犯人を知る。
水都だった。
てか、この部屋は水都が使ってるし、
この時間帯にこの部屋居んのは呼び出した本人の水都しかいねぇだろうけど。
「居るんなら、電気ぐらい点けろ!」
はっきりそれを、言いたい。
驚くから、こういうのは勘弁してくれよな。
まだ愚痴るオレの言葉に、低い笑い声が重なる。
笑い事じゃないんだけどな。
今日の水都は、いたく上機嫌だ。
あまりに水都が笑い続けているんで、オレも可笑しくなって一緒になって少し笑った。
馴染んだ水都の匂いに包まれて、安心する。
煙草とコロン…整髪剤の混ざったお世辞にも良い匂いじゃないけど。
オレは、好きだな――……。
そんなことを考えたのが、いけなかった。
一瞬の隙。
今まで、張り詰めてた糸が切れて、
オレが意識的に目を逸らしていた「感情の正体」が
あまりにも簡単に、ストンと胸の奥に落ちてきた。
なんで、今になって?
パンドラの箱の底に残されていたモノ…感情の正体。
アンタに翻弄され続けて、一年経った。
オレ今まで、誰とでも上手くやってこれて
だから誰とでも仲良くなれるのが、長所だと思ってた。
けど、水都に会って、それは違うんだって気付かされた。
今なら、理解できる。
オレ皆の事、あんまり考えたこと無かったんだ。
好きとか、嫌いとか、考えたことなかった。多分、無関心ってやつ。
だから、もし水都に囚われずにいたら
汚い感情を知らずに生きていけて…ある意味、幸せだったんだと、今でも思う。
でも、アンタに会って。
理不尽な事、いっぱい強制されて。
オレそん時初めて、真剣に人と向かい合った。
今までオレに無かった感情を芽生えさせてくれたの、アンタだった。
憎しみ、悲しみ、孤独と絶望、そして…。
オレは、いつのまにかアンタ、水都を…好きになってたんだ。
「どうした、羽柴?」
「何でもナイ」
オレは瞳を閉ざす。今は何も考えたくはなかった。
でも、どうしてだろう、な?
誰よりも失いたくない人の腕の中にいるのに。
その人に、自由を縛られるほどに
求められているのに。
どうして、
こんなにもひどく泣きたい気分になるんだろう?

『お前はオレのモノだ…』
『やだね!!』
『フッ……。本城や藤守だったか…がどうなってもいいのか?』
『それは…』
『まあ、どちらにしろ
お前に私の命令を否定する権利などないのだから』
そう遠くない昔、交わした言葉の記憶。
なぁ、オレの気持ちは要らない?
必要ない?
オレたちは、祭と藤守みたく対等な関係には…なれないのかなぁ?
そんなこと、ないよな?
オレたちの関係もいつかは――……でも、「いつか」っていつだろ?
不安を拭い去ろうとしても、それ以上の不安が襲ってきて。
悪い思考は、止まらなかった。
明日…? 一年後? それとも、もっと後?
それとも。
ずっとこのまま、アンタは命令する支配者で、
オレは性奴隷で。その立場は変わんないのかよ?
ああ…それって。
いつまでいっても、交わらない線と線のような、絶望的な関係じゃねぇか…。
もし、オレたちの関係に、一欠けらの希望でも見出すことが出来たなら、
自由を縛られても、それに縋りついていくぐらいの覚悟はあったんだ…でも。
もう、駄目だ。
足元が崩れ去っていく。暗い深淵に、心が堕ちていっちまう。
オレは、そんな自分を救う術を持たないまま、
堕ちて行くのを、ただ見ているしかなかった。
自分のことなのに、どこか客観視しているオレがいる。
ホントはさ、水都。
分かってたんだ。
わかってたのに…わかりたくなかったから、
見えない振りしてた。
嘘の世界で、生きていたかった。
耳を塞いで、アンタがくれる嘘だけを信じていたかった。
アンタに必要とされたかった。
アンタの心の支えになりたかった。
本当はアンタに捨てられるのが、怖かった。
怖かったんだよ、水都…。
でも、もう止める。
オレには、もうこれ以上水都と一緒には居たらいけないんだ。
アンタを好きでいたかった。
だけどッ!今離れなかったら…オレが駄目になっちまうんだ。
無茶苦茶に、心が引き裂かれてバラバラになる、から。
止めなきゃ…いけないんだ、こんな歪んだ関係。
オレは、水都の背に回っていた手を外すと、
ぐっと、覆い被さっていた水都の身体を押し返した。
「……?」
水都は一瞬のオレの行動の意味が、分からなかったみたいで
もう一度抱きすくめようと手を伸ばしてしたけど、
オレはその手をはっきりと拒絶した。
そして、止まった呼吸と一緒にゆっくりと言葉を吐き出す。
「今日来たのは、アンタとこんな…関係を止めるって言いにきた…だけ、だから」
すべてを断ち切るために、言った。
大嘘吐き――…!
そう、オレ自身を罵倒する。
本当は…こんな歪んだ関係を、切りたくなんかねぇくせに。
オレは、嘘吐きだ。
水都の表情は、まったく変わらないのが。
それが、無性に悔しくって仕方なかった。
「…何の冗談だ?」
うん、そうだよな。
ホント冗談だったら、良かったのに。
今だったら…なぁ水都、
その言葉をさ撤回したら…オレたち元通りの関係に戻れる?
なんて、そんな誘惑がオレの頭ん中グルグルしてて、
オレってマジに馬鹿みたいだ。
決めたんだろ?
なのに、オレもう後悔してる。
でも、もう遅いよ――言っちまったんだから。
オレは…オレの意志はすげー弱い。
知ってたけど
けど、それじゃ駄目だってのも、きちんと知ってっから。
変わらなきゃ、変えなきゃいけないんだ。
「もぉ嫌なんだよ!こんなオカシイ関係続けんのも、
アンタに女みたく抱かれんのも全部、嫌気がさしてんだっ!!」
オレはすべてを振り切るように力一杯、水都に怒鳴った。
水都に口論で勝てないことぐらい、
力尽くでも勝負にならないことも、十分に理解してる。
でもさ、ここで逃げたら絶対駄目なトコロ、だろ?
負けないように瞳に力をいれて、オレは再度言った。
「もう、止めた。……オレ帰る。ここには、明日から来ないからっ!」
それだけ言うと、オレは水都の脇をすり抜けようとした…瞬間、
肩を掴まれて、書棚に押し付けられた。
ガタっ!
強かに打ちつけた衝撃で、一瞬呼吸が止まる。
「ゲホっ。…い……っ…」
両肩を縫い止められ、身動きが取れない状態で、
水都がオレの耳元で囁いてきた。
「そんなことが、お前出来ると思っているのか」
出来るか、だって?
そんなん…アンタが一番……。
「出来るさ……もう、アンタの脅しには屈しねぇ。
藤守たちを脅しのネタにしても、駄目だかんな!!」
「くくく、そう…か。」
「っ!?」
「来ないのも結構。だが、お前の身体はどうする?
お前は俺が一から仕込んだんだぞ…オレのアレを見ただけで
濡れる淫乱が、一人寝に耐えられるのか?」
優しい囁きと耳を同時に嬲られる。
ぞくり、とした。
快楽に慣らされたオレの身体はそれだけで、熱くなって。
「み、なとッ!!やめ―――っ!?」
拒否の言葉は、水都の唇で封じられた。
角度を変えて、より深い口付けを繰り返す。
窒息寸前の高揚感を感じながら、
オレは悲しいのかなんなのか自分でも分からねぇ涙を零した。
そのまま床へ押し倒され、
いつもより急性な行為に、意識を無理やり剥ぎ取られる。
「も、…いや、だ!! こんな…くぅ―…ッ」
「黙ってろ」
有無を言わせぬ、水都の声とほとんど同時に、
シーンズをスラックスを一気に脱がされ、両足を持ち上げられる。
何の準備もないまま、熱い昂りが押し付けられた。
「痛ッ…ぅああああ――――ッ!!」
絶叫が、喉を突いた。
フローリングの床に醜い引っ掻き傷を残す。
痛みで、視界が歪む。
脂汗が吹き出て、意識が朦朧としてきた。
オレは、オレの上で動いている水都を
ぼんやり見つめいることしか出来なかったけど、すぐに痛みで、意識を失った。



オレは、いつもの感触で目を覚ます。
心地よい感触。
ああ、水都がオレの身体を拭いてんだな……。
ホント律儀な奴なんだから。
目を覚ましている、といっても、身体は眠ったままなんだけどな。
ただ、意識だけが覚醒してる感じってわかるかな?
だから、水都はオレが起きてるってこと知らねぇと思う。
身体、全然動かねぇしな。
セックスした後の水都は、起きてオレと話してるときの水都と、違う。
すげー、優しい。
何も言わないまま、ずっとあたまを撫でてくれるんだ。
掌から感じるものは、温かみに満ちていて
オレの意識は、再び深い闇に堕ちていく。
「…羽柴」
初めて、水都が声を発した。
「どうして…俺はお前に辛い顔ばかりさせてるんだろうな?」
な〜んだ、水都そんなこと考えてたんだ?
てか、一応鬼畜なことやってんの自覚あんだな…。
オレは、アンタがそっち系の趣味の人かと心配してたんだぜ?
まぁ、半分は趣味っぽいけど…道具置いてあるし。
「こんなにも、お前を愛してるのに、な」
は?
一気に、眠気が覚めた。
「………ん、だよソレ?」
オレは、普通に動かすことも辛いだろう身体を一気に起こして、水都に食って掛かった。
「…………起きていたのか?」
「寝てた!!じゃなくって、さっき言ったこともう一度言ってみろよ!」
さっきの夢、じゃあねぇよな?
それを本人の口から、直接確かめたかった。
水都は、急に動いたせいで貧血で倒れかけたオレを
ソファに座らせると、自分も同じように横に座る。
沈黙が辺りを包んだ。
顔を伏せて、水都は考え込んでいる。
急かしたかったけど、オレはじっと我慢してその刻が来るのを待った。
しばらく経ったあと、水都はぽつりぽつりと話し始めた。
「………呆れているだろう?
俺は、お前の意思を無視して酷いことばかりしてきた。
今更になって、お前が好きだなんてどの面下げて言える?」
苦渋に満ちた、水都の声が意味するもの。
それはつまり…オレの事が好きってコトだよな?
信じられねぇよ。
水都がオレを好き、だなんて。
だって、今までしてきたことにそんな気持ち感じなかったんだから。
オレはそれを、疑問にした。
「アンタがオレのこと好きだなんて、そんなこと全然知らなかった…
でも、だったらなんでオレを無理やり犯ったりしたんだよ?
他に方法があったんじゃねぇの…?」
こんな歪んだ関係にしなくても。
オレの考えを読んで、水都は自嘲的な笑いを浮かべた。
「お前は俺の存在など、眼中にもなかっただろう?
オレとお前は、ただの生徒と教師の関係…歳も離れていて、何の接点もない。
ましてや、恋愛感情云々…など、想像すら出来なかったんじゃないか?」
あ、そっか。
確かに、それは否定できない。
一年前まで、オレにとってアンタは、単なる陰険な数学教師でしかなかったし。
ひとり納得してるオレを置いて、水都は話を続ける。
「実際、お前はクラスメイトの藤守と噂になっていた…
他の奴に奪われるくらいなら、お前に憎まれてもいいから、
どうにかして俺の方を向いて欲しかった」
おいおい、怖いやつだなぁ。
噂ぐらいで、嫉妬されてたのか……。
でも、それってちょっと嬉しいかもしれない、なんで考えてる辺り
オレも水都に毒されてきてるんだろうなぁ。
「藤守は、祭と付き合ってるよ」
不安解消ってワケでもないけど、そう言ってやる。
まぁ、ホントのことだし?
「そう、か……俺は。お前の心を手に入れられないのならば
俺との交わり無しでは生活できないような身体にしてやろうと
思ってやってきた…根性の捻じ曲がった男だ」
笑いながら、さらりと水都は言う。
だから、オレも聞き流しそうになっちまったけど、すんごい事言われたんだよな?
はぁ。そんな、恐ろしい計画を……立てるだけじゃなく、
きちんと実行されてるし。
オレは、最初から水都の手のひらの上で踊らされていたらしい。
にしても…最近、前にも増してアレがしつこかったのはそのせいか…。
今んなって、ようやくわかったぜ。
「…俺は今まで、お前を俺の我侭で縛ってきた。それに後悔はしていないが、
お前には…謝っても、足りないことをした。
だから…これからはお前の好きなように、自由にすればいい」
「え?」
オレは、二の句が告げずに固まっちまった。
なんだよ、それ!?
今まで、勝手に自由奪っといて、今になって、解放してやるだって!?
そんなん、許せるかっ!!
「本当に、そう思ってんのかよっ? これから、オレがアンタの目の前で
誰かと一緒にイチャイチャしても後悔しないんだろうなッ!?」
オレは、無茶苦茶なことを水都に言ってる。
さっきまで、別れるって言っといて、その許可が下りたら、
今度は、逆のことを水都に問うている。
でもさ、これがオレの本心なんだよ。
せっかく両想いになれてんのに、何で別れなきゃなんねぇんだ?
オレの言葉に、水都の表情が変わる。
いつものスカした顔から、余裕のないものへ変貌を遂げる。
へへ、やったぜ。
アンタの驚く顔を見たかったんだ。
じゃあ、最後の仕上げといくか。
最後の最後で、本心を語ってくれた水都への礼も込めて。
「オレも告白すると、さ」
アンタに届くかな?
「今日あんなこと言ったのは、だな…。実は、あんたに捨てられるぐらいなら、
自分から別れたほうがいいんじゃないかって思ったから、なんだ」
一言一言、ゆっくりと。
心の底に溜まっていたものを、吐き出す。
今まで、届けることが叶わなかった想いを込めて告白した。
やっと、肩の荷が下りたぜ。
オレは、水都の顔を覗き込む。
水都が間の抜けた顔して固まってるってことは、
オレの爆弾発言は、無事目標物に着弾したらしい。
その顔があまりに見っとも無くって、笑いがこみ上げてきて、
我慢出来ずにオレは爽快な気分で笑った。
心の底から笑えたのは、久しぶりだった。
「羽柴、それはもしかして…」
やっと我に返った水都に、悪戯っ子の笑いをひとつ放って。
「さぁな?」
と、オレはトボけてみせた。
今まで、アンタの勝手に振り回されてきたんだから、
アンタが欲しがってる答えは、まだ言ってやらない。
いつか遠くない日にオレの方が我慢できすに言っちまうだろうけど、今はまだ。
これからは、オレの我侭たぁっ――くさん聞いてもらうからな!
覚悟しとけよ、水都!!





永きにわたり、彷徨い歩いた迷宮の果て。
その日、オレはひとつの箱を拾いました。
暗闇に淡く光る、薄汚れた箱の中には
驚くべきことに、彼への想いが溢れるほど詰まっていました。
怒り。憎しみ。憂い。
苦しみ。孤独。飢え。快楽。後ろめたさ。
そして――……恋しい、という気持ち。
彼へと向かう様々な想いの言ノ葉。
それは、開錠すると同時に、オレの掌をすり抜けていってしまいました。
箱に残ったものは、底に落ちていたボロい鍵がひとつっきり。
オレは、それを拾い上げました。


その鍵は、たった一言の言ノ葉です。
それを行使するには、沢山の勇気が必要でしょう。
あるいは、多くの時間が。

その鍵は、すべての人が持ち得る魔法です。
それを行使すると、多くの人に幸福をもたらすことでしょう。
あるいは、多くの人の笑顔を。

その鍵は、恋する人の心にだけ存在する泡沫の言ノ葉です。

「アンタのことが好きだ」
それは誰かの心を開く鍵。
OPEN SESAME。
さあ、扉は開かれた。
すべては、ここから始まる。





うぎゃ〜、ごめんなさい。怒らないで…。
文章力の欠如です…伝えたいことの半分も書けなかった。
テーマはズバリ「告白しよう」でした。
でも、これ以上長くなるわけにもいかず…というわけで
「実は両思いだけどお互いが気付いてない感じの水空で…」ていうリクだったんですが、
夢さんごめんなさい!!
私にはこれが限界だったみたいです。









しあんさん〜有り難うございます!私のハートを鷲掴みな水空を書いて下さりもう感激デス!リクエストもバッチシですよ〜お互い両思いですし♪しかもラブラブ好きな私にはたまらんラストですし!乙女な空と素直な先生が読めてニヤけてしまいました〜水都先生の計画もいつかやってもらいと心の中で願ってます!空はいから先生に仕込まれちゃってますもんね(苦笑)
何より祭×直を書いて下さって有り難うございます!中々無いんですよね…祭直。
今回は本当に有り難うございましたv今後ともよろしくお願いします。またサイトにお邪魔します!

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