01.最後の笑顔
向こう側から何とかこちら側に戻ってきたのをエドワードは目の前にいる人物達を見て確信した。
そしてもう一つ知りたくない事実までもが目の前で起きていた。
ノーアの腕に抱かれたアルフォンスは腹部から血を流し既に死んでいた。
その事実にエドワードは呆然とする。
ノーアが自分に何故戻ってきたのかと聞いていたが、自分には遠くの言葉に聞こえて返答なんてできなかった。
「アルフォンス…」
先程まで元の世界で一緒に錬成をしてすぐ側にいた弟と瓜二つな顔をしているアルフォンスのもう動かない姿を見てエドワードはただ立ちつくし呆然とする事しかできなかった。
だが、そんなエドワードのすぐ側から思いも寄らない声が聞こえた。
「兄さん」
もう二度と聞けないと思っていた、忘れもしない声がすぐ側から聞こえエドワードは声の方を振り向く。
そこには、2年前常に一緒にいたアルフォンスの鎧があった。
「兄さん」
再度名前を呼ばれエドワードは鎧へとかけより顔をのぞき込む。
「アルっ!何で?…どうして…」
エドワードは嬉しさを隠せなかったが、どうしてこちらの世界で会話がまた可能になったのか疑問にも思った。
「魂の一部を定着させたから、話せるんだよ。…それより、兄さんに一言どうしても僕言いたかったんだ!」
エドワードの胸中を充分理解して返答しながらもアルフォンスは鎧の両手でエドワードの両肩にポンっと手を置く。
「何だ?」
エドワードは顔に笑みを浮かべてアルフォンスを見る。
「僕、兄さんに幸せになって貰いたいんだ。僕なりにどうしたら向こう側の世界に行った兄さんを幸せにできるか、あの長短時間の中で考えて、そして思いついたから実行に移しちゃったv」
鎧で表情は分からないが声はとても明るく楽しそうだ。
「…アル?」
嬉々とした様子のアルフォンスにエドワードはちょっと引いた。
何となく、アルフォンスの喜ぶ事は今までの経験上ちょっと自分にとっては心臓に悪かった事もしばしばあったからかもしれないが。
「そんなに心配する事じゃないし、きっと…ううん、絶対に兄さんは喜ぶ事だから!」
「そ…そうか?」
力説するアルフォンスにエドワードは疑り深い目を向ける。
「まぁ、それは見てからのお楽しみ。それより、僕思ったんだけど魂の一部が定着できるって事は僕と兄さん通信できちゃうんだよねvお互い体はバラバラだけど、話す事はいつでもできるから!」
「そんな事したら、お前が危険になる!」
「大丈夫だって。僕、こう見えても2回も扉に行った経験あるし、魂なんてしょっちゅう定着しているから問題ないって」
「ア〜ル〜…兄ちゃんの言う事は聞け!本当に危険なんだぞ」
「そうかもしれないけど、僕は兄さんともう離れるのは嫌だよ!たとえ、もう会話だけでも僕はしたい!二人っきりの兄弟なんだよ!!」
アルフォンスの悲しげな声にエドワードは何も言えなくなる。
自分も本当は今のようにずっとアルフォンスと話ができればどんなに幸せな事か分かっている。
だけど、二つの世界でこうして会話を繋げる事がいつかアルフォンス自身に何か影響がでてしまうかもしれない不安もある。
「俺もお前とこうして話をしたい。だけどっ」
「兄さんの言いたいことは分かってるけど…あ、もう時間だ。僕の魂もそろそろ限界みたい。また後でまた声かけるねv」
「アルっ!」
「そうそう、言い忘れたけど僕が消えたらこの鎧の中にいる人、兄さんちゃんと起こしてあげてねv相変わらず隙がなかったから、ちょ〜っと強制的に気絶させちゃったから」
「おっ、おい、アル!?」
アルフォンスの言葉にエドワードは何のことだか分からず問いかける。
「本当にもう時間が少なくなってきたみたい。また絶対に連絡するから。だって、あんな少ししか会えなくて、やっと見た兄さんの笑顔が別れの笑顔なんて物凄く嫌だもの。だからどんなに反対して僕は連絡するからね!」
「………あぁ」
エドワードはアルフォンスの本気の声を聞いて、しぶしぶといった感じで返事をする。
だが、了承の返答を聞いたアルフォンスは、安心したように小さく息を吐いた。
「僕はいつでも兄さんの幸せを願っているよ。それに大佐にも幸せになって貰いたいんだ」
「…大佐?」
アルフォンスから出た人物の名前にエドワードはビクリと肩を震わせ反応する。
「この…中に…いるから。…また…連絡…す……」
「おい、アルっ!?アルフォンス!!」
エドワードはがくがくとアルフォンスの鎧を揺さぶるが、ついに魂の定着が切れてしまったのかそれ以上アルフォンスの声は聞こえなくなってしまった。
それでもエドワードがガクガクと両手で力まかせに鎧を揺さぶっていると小さなうめき声が聞こえた。
エドワードは鎧の中から聞こえた声に両目を大きく見開く。
「ま…さか…」
エドワードは自分の目で鎧の中にいる人物を正体を突き止めるべく、そっと頭部と胸部を取り外すと、そこには自分がこの二年間弟と同じ程忘れる事の出来なかった男がいた。
「た…いさ…」
鎧の中で眠っている人物の名前をポツリと口にした。
エドワードが唯一『大佐』と呼ぶ人物、ロイ・マスタングだった。
「ん…」
エドワードの声に反応し、眉間を軽く皺を寄せながら、呼ばれた男はゆっくりと閉じていた両目を開けた。
「大佐?」
どこかまだ虚ろな視線のロイにエドワードは声をかける。
暫しの間、黒と金の瞳が互いを見つめる。互いに無言で見つめ合うが、初めに声を出したのはロイだった。
「は…がね…の?」
鎧の中から青い軍服に発火布を付けたままの右手でそっとエドワードの頬に手を添える。
目の前に存在するかを確かめるように―――。
「鋼の…本物か?」
「…たっ、いさ…ほんと…に…?」
「私が偽物に見えるかい?」
ロイは4年前から同じ、少しからかい混じりの声でエドワードに答える。
「見えない…」
そう言いながら、エドワードは両目から涙を溢れさせる。
溢れた涙はエドワードの頬をどんどんと濡らしていく。
涙を零すエドワードにロイは左手も頬に添えると、両手でエドワードの涙を拭う。
発火布が涙を吸い込みどんどんと濡れていくが、それでもロイはエドワードの両頬から手を離そうとしない。
「…いいかよ?…濡れた…ら、っく、ア…ッタ、む…の…なる…だろ」
「それもそうだね」
ロイはクスリと笑うと、エドワードを自分の方へ引っ張るとそのまま両腕で抱きしめる。
「なら、これなら幾ら濡れても構わないだろう」
言いながらロイは自分の腕の中にエドワードを抱き寄せると離さないというように、両腕に力を込める。
エドワードもロイの軍服を両手で握りしめ、胸に顔を埋める。
「やっと…君を抱きしめられたよ」
「大佐…」
「アルフォンスに後ろから殴られた時は恨んだが、目が覚めて鋼のがいて抱きしめられる事ができる事実には感謝しなければだね」
「大佐…ねぇ、大佐は本当にいいの?」
「何がだい?」
「だって…こっちの世界に来たら…もう向こう側には帰れないんだよ…俺は自分で決めたからいいけど、大佐は…目標があるんだろ?」
エドワードはふと思い出した。
目の前の男は大総統になるのが目標だったのだ。
大総統になって戦争のない平和な国を作ろうとしていた。
だが、この世界に来たらその夢は全部消えてしまうのだ。
エドワードは顔を上げてロイを見る。
「そうだな…目標は確かにあった。だが、私はあの後大佐役は降りたんだ。自分の意志でね」
ロイの言葉にエドワードは驚く。
あれ程までに常に上を目指していた男が、自分から一兵卒になる事などエドワードには信じられなかった。
「何で?」
「大切な人を守りたいから私は大総統になろうと思った。愛しい人を傷つける世界は嫌だった。…だけど、私の中で一番の存在だった君が世界から居なくなってしまった事を知りその意志は何処かにいってしまったんだ」
ロイは小さく自嘲する。
「大切な人が、守りたい者の居ない世界を愛する事はできない。そして真に平和に導く事もできないだろう」
エドワードは黙ってロイの言葉を待つ。
「だから私は後悔はしていない。君とまた一緒にいられる事に嬉しく思っているんだ」
「大佐…」
キッパリと言い切るロイにエドワードは喜びを覚えるが、それとは逆に何と返事を返していいのか分からない。
「エドワード、君は私の側に共にいてくれるかい?」
大きな目を零れんばかりに見開くエドワードの耳元にロイはそっと囁く。
「…俺も…大佐の側にずっといたいって思ってる」
エドワードは首まで真っ赤に染めながら、はにかんだ笑みを浮かべてコクリと頷く。
エドワードの返事にロイは本当に嬉しそうに微笑みながら、エドワードの額、両瞼、頬へとキスの雨を降らす。
エドワードも両目を瞑ってロイのキスを受け入れた。
そして、軽く顎を持ち上げられると唇にそっと触れるだけのキスが送られた。
「鋼の、『大佐』としての私はもうココにはいない。そして『鋼の錬金術師』の君ももういない」
唇が離れると同時にロイがエドワードに告げる。
「大佐?」
エドワードはロイの言葉にキョトンとする。
「この世界は『あちら側』ではない。つまり私はただの『ロイ・マスタング』そして君は『エドワード・エルリック』もう"鋼の"も"大佐"も私達には関係無いだろう…エドワード」
ロイの言いたい事をエドワードは理解した。
「でもっ、大佐は大佐だし…」
だがエドワードには何となく気恥ずかしくて今まで通りでいたいというニュアンスを含めて返事する。
「私はエドワードに名前を呼ばれたいのだよ」
爽やかに笑ながらも有無を言わせぬ迫力で告げるロイにエドワードは自分の意見は通らない事を4年間の付き合いで学んでいた。
しかも既に『鋼の』から『エドワード』に名前が呼び方が変わっている事にますます名前で呼ばせる気が伺えた。
「…けど…」
エドワードはそれでも渋る。
「わかった。それなら鋼のとは今、ここでお別れだ」
いつまでの了承しないエドワードにロイは小さく溜息を吐きながらエドワードに告げる。
「え!?」
エドワードはロイから告げられた内容に一気に目の前が暗くなる。
「どうした鋼の?まぁいい。今まで鋼のとは上官と部下であり恋人同士の関係だったがそれは今現在で終わりにしよう。最後はやっぱり笑って分かれるのは互いにとっては良い印象だろうな」
ロイはエドワードの体を自分の胸から離すと鎧の外に立ち上がる。
そしてエドワードの腕を持ち上げ自分の目の前に立たせる。
「今までは大佐だったが、もう私は軍人では無いし君の上官でない。鋼の錬金術師はもう私の元にはいない。さようなら鋼の」
ロイは優しい笑みを浮かべてながら別れを告げる。
「…う…うん…さよ…なら…大佐」
エドワードは鈍器で思い切り殴られたかのような衝撃を受けつつも何とか踏ん張り、今にも泣き出しそうな笑みで何とかそれに答える。
もう頭の中はごちゃごちゃで何も考えられなかった。半ば意地だけで自分も別れる事に了承している状態だ。
「さて、これで以前の話達の関係別れた訳だ。では改めて、宜しくエドワード・エルリック。私はロイ・マスタング。地位もなければ国家錬金術師の資格も無くなってしまったが、これかれ私と共に在って欲しい」
そう言いながらロイは右手を差し出す。
「は?」
ロイの態度にエドワードは思わず間の抜けた返事を返す。
「は?じゃないだろう?エドワード…さっきも言ったと思うが、『大佐』と『鋼の』の関係の私たちはさっき笑顔を分かれたではないか。そして今はただの『ロイ・マスタング』と『エドワード・エルリック』という二人で新たに交際を申し込んでいるのだが?」
もしかして、本当に別れ話だと思っていたのかい?と少し呆れた声で言われて、エドワードはやっと意味を理解した。
つまりこの男は自分を名前で呼ばせるために、向こう側の世界の関係を終わらせたのだ。
何という強引な手段。
エドワードは自分が一瞬本気で別れ話を告げられたと思ってしまった事に、自分自身に腹を立てると同時に、目の前の男に呆れてしまう。
「アンタもう30過ぎた大人だろうが」
「ははは。恋人に名前を呼んで貰いたい気持ちは大人だろうが子供だろが同じだよ。で、返事を貰わないとね」
勿論断るなど思ってもいない余裕な表情を浮かべるロイにエドワードは一瞬だけ振ってやろうかと考えるが、すぐにその考えを取りやめる。
自分にはできない、無理な事だと充分に分かっているから。
この2年間離れていて改めてその存在の大きさを思い知らされたのだ。
「俺はエドワード・エルリック。ロイ。マスタングのその申し出を受けてやる」
素直に答えるのは何だか悔しくてエドワードはぶっきらぼうに答える。
まるで喧嘩を申し込まれたようだな…とロイは苦笑しながらもエドワードの答えに満足すると、エドワードの体を抱きしめて唇にキスを送った。
『鋼の』と『大佐』、『上官と部下』、『国家錬金術師』の関係は今日で終わり。
最後は互いに笑顔で別れて、、これからは『エドワード・エルリック』と『ロイ・マスタング』の関係を築いていこう。
今度こそ、離れる事のないように……。
END
コメント
周りを無視して二人の世界にいるカップル…。
ごめん、アルフォンス・ハイデリヒ…死んだままの状態で放置に…(滝汗)
個人的に映画がこうなったらいいな〜とか勝手な妄想でしす。映画終わった後すぐに話が思いついて速攻で打ち続けました。
アルは魂飛ばせる特技があるし、何よりロイエドがやりたかった!
何だろう、滅茶苦茶ロイエドというかロイ→エド?大佐はエドがくるのを待ち望んでいたっぽいし。エドがやってきて表情明るくなるし、錬金術使いまくるしなぁ、やっぱりロイエドって素敵とか改めて思いましたv
お題タイトルに関しては…どうしようです。最後の意味が違っているけど、そこは皆さんの温かく大海原のような心の広さで見逃して下さい(土下座)