03.この街で暮らして
ロイがこちらの世界にやってきたので、俺達はさっそく入り用の物を揃えるために商店街へと足を進める。
人々の間では相変わらず、戦争の話題で町は持ちきりだった。
そんな世の中だからかもしれいが、ロイの左目の眼帯に関して特に何も突っ込む者はいなかった。
むしろ戦争をしてきたという事になっている。
確かに戦ったがそれはこちらの世界では考えられない戦いと、それを離すと色々と面倒なので二人ともあえて何も言わなかった。
住んでいる所は今もアルフォンスと一緒に過ごした家に下宿している。
アルフォンスの葬儀に参加し、出ていこうにもまだ色々と問題が山積みになっている現在ではすぐに立ち去る事よりもう少し落ち着いてから出ていく事にした。
「もう少し落ち着いて、きちんとした住む場所が決まってから出て行きなさい」
そう助言をしてくれたのは、下宿先の家主であるグレイシアだった。
家賃に関してはアルフォンスから貰っているという事と、彼女なりに心配をしてくれるのはエドワードにも充分分かった。
同時にグレイシアはエドワードが一緒に連れてきたロイを不思議がることも無く「宜しく」といって受け入れた。
ノーアの事といい、つくづくグレイシアの懐の寛大さにエドワードは嬉しく思った。
その事をロイに伝えると「彼女の心はどちらの世界でも同じなんだな」とどこか懐かしむように答えたのはまだ記憶に新しかった。
ロイは市街を歩き、街並みを頭に中に記憶する。
この世界にきてまだ間もない為、どうしても地理を理解するにはこうして自分の足で歩いて見つける事だという事は、東方司令部で学んだ。
査察という名で自らの足で様々な所を見て回った。
そのおかげか、地図を良く見なくても道が何処に繋がっていたり、行き止まりだったりと細かく分かったのだ。
そういった事もあり、イーストシティは大分治安が良くなっていたのだった。
「懐かしいな」
2年前までは自分の統括していたイ東方司令部を思い出してロイは懐かしい気分になる。
だが、その頃とあきらかに違うのは隣にいる人物。
いつもあちこちを旅していう彼と常に一緒にいる日が来るとは本当に今でもロイには夢のようだった。
だが、これは決して夢ではない。
その証拠に隣にいる愛しい人は今も自分に向かって楽しそうに店の説明をしてくれる。
「んで、あっちの赤い店が美味いパンが売ってるんだvあそこのロールパンは俺の中では結構上位に入ってる。それで、その向かいにある工具屋は品揃えが割といいんだ」
店を指指しながら一生懸命説明するエドワードにロイは一つ一つコメントを返していく。
愛おしくてしかたが無いという表情を隠さず、ロイはずっとエドワードの話を聞いている。
見ていて思わず『幸せ』という字を思い出す位、二人は嬉しそうに街を歩いていた。
「今日はエディがお薦めする店に一通り行こうか」
「…うん」
ロイはエドワードの肩を軽く抱きしめながらまずはエドワードが指さした赤い屋根のパン屋へと向かう。
それから、その前の工具店で機械鎧を磨くためのオイルを買って、雑貨店で日用品を買い、本屋に立ち寄り互いに欲しい本を探して、肉屋に果物点等順番は決して効率が良いとはいえないが、エドワードが口にする店に片っ端から入っていった。
そんな二人がようやく家に帰ってきたのは夕日が沈みかけた頃だった。
「あ〜疲れたぁ。久々にこんなに買い物した」
「私もだよ」
二人して両手に抱えていた大きな紙袋をテーブルの上に置くと、椅子に腰掛けくつろぐ。
「流石に買いすぎたかもしれない…」
エドワードは大量の荷物を見て今更ながら後悔した。
「別に使うものばかりだから置いておいても邪魔にはならないだろう」
ロイは事も無げに言う。
「ん〜でも、昔から節約した生活ばっか送ってきてたから」
「そういえば国家錬金術師として莫大な研究費を貰っていたのに君達はいつも宿は安部屋、電車も一般料金だったね」
「ど〜せ、俺はロイみたいに高級レストランやホテル、コンパートメントなんて乗った事ないってーの」
大体研究費用をそんな無駄に使っていて、いざ金が足りなくなった時の事を考えてみろ…とエドは呟く。
「おや、私はデートの時のお金は大佐としての給料から支払っていたのだよ。研究費はきちんと研究の代価以外支払っていないよ」
今更ながら明かされる事実にエドワードはグッと言葉に詰まる。
それい以前に、大佐の給料は一体幾らだったのかが気になるが今となってはそんな事きいても仕方のない事だ。
ロイは椅子から立ち上がると、キッチンに向かいコンロの上に薬缶を置き火を付ける。
お湯を温めている間に、本日購入した紅茶の缶を袋から取り出す。
そして茶葉をポットの中に入れて、次にカップ2つ取り出す。
キッチンで作業するロイを初めはエドワードもちょっと以外に思ったが今ではすっかり慣れた。
そして以外な事に、料理やお茶の入れ方が上手かった。
本人曰く、錬金術は台所から発生した。錬金術師にとっては料理も実験の一つだとの返答。
この台詞を世の錬金術師に聞かせたら反対声明が大半を占めるとエドワードは心の中で思ったのは目の前の男には秘密である。
コトリという音に意識を現実に戻すと、テーブルの上にいつの間にかカップとポットが置かれ、お茶菓子のクッキーも一緒に用意されていた。
「相変わらず用意周到だな」
「それは褒め言葉として受け取っておくよ」
「勝手にしてくれ」
エドワードがクッキーを手に取り口に運ぶ。
お気に入りの店のクッキーなのでエドワードは満足気にペロリとクッキーを胃に落とす。
「エドワードはいつもあんな感じなのかい?」
「何が?」
ロイは紅茶を淹れたカップを差し出しながらエドワードに問うが、何がいつもなのかが全く分からないのでエドワード紅茶を一口飲むと逆に聞き返す。
「道行く人と気さくに挨拶をして、店員とも顔見知りのように話している君を見ていると、きみはこの街で暮らしているんだな…と、改めて思い直したんだよ」
ロイは感慨深気に話す。
「この街で暮らしてまだ2年だけどな。…戻り方も分からず、右も左も分からない世界だけど生きていかなければならなかったからな」
「そうだな」
「ん。…ずっと一人で寂しかったとうか、焦っていた。成長したアルにそっくりなアルフォンスと一緒に暮らしていたけど、アルはアルフォンスでは無い。どんなに親しい人がいても俺の知っている人とは違うという事を突きつけられて、毎日焦燥感でいっぱいだった」
「そうか」
「でも、今はもう一度戻れるなら戻りたい。勿論ロイも一緒にね。……だけど以前のように焦った気持ちは無いんだ」
エドワードは顔を俯かせて淡々と話を進めていく。
ロイの方も、エドワードの言葉に隠された意味を分かっているというように、優しい眼差しでエドワードを見つめる。
「二人でこれから進むべき道を考えていけばいい。もう一人では無いのだから」
ロイはエドワードの両手に自分の手を重ねた。
「そう…だな。俺達で少しずつ先に進んでいこう」
エドワードは顔を上げて真っ直ぐにロイを見つめると、言葉の変わりに頷きが返ってきた。
この街で暮らして2年。
今までは孤独と焦りと不安でいっぱいだった。
でも、今は共に在る人が隣にいる。
これから始めよう。
二人で前に進んで、止まった時間を取り戻す。
そしてもう一度、自分たちの大切な人達がまつ世界へと帰ろう。
どんなに時が過ぎようが…
二人ならきっと大丈夫――。
END
コメント
お題にクリア?明らかに違った使い方かもしれません。
しかし、私としてはどうしてもエドワードがロイに自分のお気に入りのお店を嬉しそうに(ここポイント)案内しているシーンが書きたかったんです!
私の中ではグレイシアさんは『良妻』のイメージが強いです。イズミ師匠も良妻っぽいですが、強すぎだから(笑)