Warmth
僕とクレプスリーは生活習慣が違う。
当たり前といえば当たり前の事だから本当にどうしようもないことだと分かってはいる。
クレプスリーはバンバイア。太陽の光を浴びたら死んでしまう。
方や僕は半バンパイア。人間とバンパイアのハーフだから太陽の下を歩いても全く問題にはならない。
ただ、問題があるとすれば1つだけ…。
僕とクレスプリーの起床時間が合わないのだ。
僕が半バンパイアになって、あと数日で2週間を迎える。だけど僕はまだ日暮れから起きるというのには慣れなかった。ついこの前までは就寝時間は10時だった。そして起床時間は早朝。朝起きて学校に行かなくてはならなかったので『人間』としての生活ではなんら支障はなかった。
でも、今はもう人間ではない。半分だけとはいえ、夜の住人バンパイアの血がこの躰に流れているのだ。それに僕を手下にしたクレプスリーは完全なバンパイアだから夜しか行動できない訳で、僕の睡眠時間は大幅に減ってしまった。
習慣というのは中々抜け出せないもので不思議と夜の10時を暫くすぎると眠気に襲われる。そして朝には目が覚めてしまう。
でもそれではいけない。バンパイアは夜以外の時間に移動することができないからだ。
だから僕はいつも眠いのを我慢してクレプスリーと移動する。
どんなに眠くても、やっぱり朝かもしくは昼前には目が覚めてしまうのはもう慣れしかないのかもしれない。
「困ったなぁ…」
大きく溜息を吐きながら僕は少し埃の被さったベットの上に腰掛ける。
ちなみに本日は、寂れ荒れ果てた納屋に泊まることになった。場所も森で木々に覆われているせいか日中でも日差しがそれほどまで差し込んでこない。しかも周りは木だけなので静かというか不気味という感じもした。
「なんか…本当に今までの生活とは違くなっちゃったもんな…」
ふいに、父と母そして妹のアニーの事を思い出して、目頭が熱くなる。初めの1週間は毎日クレプスリーの前でもそうでなくても家族の事や友達の事を思い出して泣いた。どうしようもない、行き場のない気持ちを涙に変えた。クレプスリーに当たる時も結構あるがそれでも、そんな時は絶対クレプスリーは僕を怒らない。むしろ申し訳無さそうな顔を僕に向ける。それがまた僕には何とも言えない。
だって自分から僕が手下になるよう仕掛けたようなものなのに、どうしてクレプスリーの方が申し訳なさそうな顔をするのだろう?
僕は無意識の内に家族の事ではなくクレプスリーの事を考えていた。
ラーテン・クレプスリー。僕を半バンパイアにした張本人。いつも不幸面で寝起きは最悪のバンパイア。おまけにスーツを着ているのに何故か足は素足で靴はサンダルというちょっと世間でイメージされているバンパイアとは違う。
そして僕が今一番憎む相手。だってこいつのせいで僕は人間としての幸せだった生活を全て失われたんだから。
僕は両拳をギュっと(手の平に爪が食い込まない程度に)握りしめると、そのまま埃臭いベットの上に仰向けになるとそのままゆっくりと目を閉じた。
「お兄ちゃん今日はごちそうよ!」
ただいまと玄関のドアを開けると同時に妹のアニーは待ってましたと言わんばかりに僕に告げる。
「ご馳走?今日は誰かの誕生日だったっけ?」
僕はご馳走=誕生日かハロウィン、クリスマスというイメージしかないのでふと頭の中で調べるが今日はどの日でも無い。
「別にそうじゃないけどごちそうなの!」
アニーは言いながら僕の腕をグイグイと引っ張って家の中に引きずっていく。
「おかえりなさいダレン」
「ただいま」
僕が素直に挨拶をすると、ママはコンロの火を止めて僕の方まで歩いてくるとチュッと頬にキスをした。
「アニーが今日はご馳走だって言ってるけど、何かあったの?」
僕は先程から一人はしゃいでいるアニーの台詞をママに問う。
「何もないけど、あたには何も無い日を祝おうと思ったのよ」
「何も無い日に何を祝うの?」
ママの台詞に僕はきょとんと目を瞬かせた。
「何も無い日でも家族全員が揃ってご飯を食べれるからよ」
「それって良いことなの?」
僕はやっぱりわからない。
「えぇ。とっても良いことなのよ。こうして毎日家族4人でご飯が食べれたり生活を共にできるって一番当たり前かもしれないけど、とても大切な事なのよ」
ママはニッコリと笑いながら僕とアニー二人の髪の毛を優しく撫でてくれた。
そして暫くしてパパも帰ってきて夕飯の支度が出来上がったテーブルを見て「今日は豪勢な食事だなぁ〜」と頬を緩ませて嬉しそうにしていた。
これは夢なのだろう…寝ているけどハッキリした意識が僕の中にあった。
僕にとっては昔の出来事、昔の思い出。
忘れ去っていた記憶。
だけど今ならあの時のママの言った意味がわかると思う。
皮肉な事に家族を失ってから気づいた。
何も無い日、当たり前の日常がこんなに大切でかけがえの無いものだと僕は今まで全く気づかなかった。
『……レ…ン』
ふと、遠くで何かが聞こえた。
『ダ…レ、…ダレン』
微かに聞こえるそのれは誰かの声で……僕の名前を呼んでいる。
男の人の声だけど…パパとはちょっと違う。
でもパパと同じように優しく僕を呼ぶ声。
『ダレン…』
また名を呼ばれると同時に、躰がほわっと温かくなった。
それは僕の心まで届く程温かいぬくもりの様な感じがした。気持ち良さが全身に行き渡って今までの悲しい気持ちがどっこに飛んでいきそうな…。
「…ん・・・」
僕はゆっくりと思い瞼を開けて、意識を戻す。
「起きたか、ダレン」
「クレ…プスリー…?」
寝ぼけ眼のまま僕は目の前にいる人物の名前を呼ぶ。今では誰よりも自分の側にいる人物。
「酷く…その…うなされていたから起こしたのだが…」
だが、クレプスリーは僕と目が合うと左頬の傷を掻きながら何だか申し訳ないように眉を少し顰めていた。
「?」
僕はベットの上から上半身を起こして、ベットの端に腰を降ろしているクレプスリーを見る。見ると、クレプスリーは困ったような顔を浮かべていた。
僕は何でクレプスリーがそんな表情をしているのかわからなくて、ただじっと彼を見つめた。
暫く互いに沈黙が続くが、先に壊したのはクレプスリーだった。
「……起こさない方が良かったか?」
コホンと、小さく咳払いをしながらクレプスリーは僕にそう言った。
僕はその意味が分からなくて、小首を小さく傾げる。
「何で?」
「…お前の寝言で…家族の名前が出てきたから…な。だが……」
どうしてだが、クレプスリーは言いにくそうに話を切り出す。
元はと言えば、僕を家族から切り離した張本人なのに本当に申し訳なさそうに僕を見ている。
いや、僕の口から家族の名前が出てきた事に対してだろうか?
どちらにせよ、やっぱり僕にはわからない。
「何でクレプスリーが困るの?」
僕は思った事をそのまま口にした。
(考えてもわからない事は聞いた方がいいと…昔パパがそんな事を言ってたっけ)
今更ながらそんな事を思い出していると、突然クレプスリーの右手が僕の頬に触れた。
「!?」
僕は目を大きく見開いてマジマジとクレプスリーを見上げた。
「お前が泣いているから…だろう」
言いながらクレプスリーは親指で僕の目元を擦るように撫でる。
自分では全く気づいていなかったけど…僕はどうやら泣いていたらしい。
「家族の夢を見たのか?」
クレプスリー手を目元を拭うのから、僕の頬を優しく撫でた。
その温かい温もりを感じたせいか、僕は先程まで見ていた夢を思い出した。
夢はいつも目覚めと共に忘れてしまう筈なのに、今日は今でも内容をハッキリと覚えているのだ。
「ダレン」
黙っている僕にクレプスリーは優しく僕の名前を呼びながらまた頬を撫でる。そんなクレプスリーに僕はどうしてだがわからないけど、とっても安心した。
「うん…パパとママ……アニー…のっ、…みっ…な…で、いた…ック、ころの…ゆめ、ヒック…みたっ…」
手のぬくもりがあまりにも温かかったせいか、気づいたら僕は夢の事をクレプスリーに素直に打ち明けていたが、言いながら両目からポロポロと涙が流れて最後は自分でも上手く言葉が喋れない。
自分でも自分がよくわからなかった。
「そうか」
クレプスリーが返事を返したと同時に、僕の全身が温かいもので包まれる。
それがクレプスリーの両腕だと分かるまでは、…だいぶ時間がかかった。
そう、僕はクレプスリーに抱きしめられていたのだ。
ビックリしたせいか、涙がピタっと止まってしまった。
「クレプスリー?」
僕はビックリしながら顔を上げると眉間に皺を寄せているクレプスリーがいた。
「泣きたいだけ泣け」
ぶっきらぼうに言いながら、僕の額の髪を片手で分けると、そこに触れるだけのキスをした。
「クレッ…!!」
僕はあまりにも驚いてると、思いきり顔をクレプスリーの胸に押しつけられた。
それが直ぐに照れているというのも僕はわかっていた。
(一瞬だったけど、顔赤くなってたし)
「いいから、子供は素直に言うことを聞くもんだ」
あまりにも、その腕が温かかったからかもしれない。
僕は憎んでいる筈のクレプスリーの腕の中で確かな安心を感じてしまった。気づいた途端緊張の糸が切れてしまい、僕の瞳からはどんどんと涙が浮かんで止まる事泣く流れ出る。
「クレっ、…ぅえ…スリー…うぇぇぇん」
僕はクレプスリー赤いマントをぎゅっとキツク握りしめながら嗚咽を漏らす。
涙は止まることなく僕の頬を伝い、クレプスリーのスーツを濡らしていく。
「ダレン…」
先程よりも力を込めて抱きしめられて、僕は涙腺がおかしくなってしまったと思う程、クレプスリーの腕の中で泣きじゃくった。
全ての事が悲しくて、全てのことが寂しくて、理由なんて色々ありすぎて…僕は声を上げてひたすら泣き続けた。
温かな温もりだけを躰に感じて……。
「寝てしまったか」
腕の中を覗くと、スースーと静かな寝息を立てる子供がいた。
「…泣かせて……しまったな」
小さく吐息を吐くきながら、両目元を真っ赤に腫らした小さな子供を見て何とも言えない気分になる。自然と右手は子供の柔らかい髪の毛を撫でていた。
「やはり…酷な事をしてしまったのだろう」
(いや、実際にしたのだな。こんな小さな少年を家族からも友人からも…全ての支えを取り上げてしまったのだから)
静かに寝息をたてる少年を起こさないように、慎重に男はもう一度腕の中に抱きしめる。
「それでも我が輩は…お前を手下にしたことは一切迷いはない」
自分に言い聞かせているように、男は一人呟く。
「お前を手に入れた事を後悔だけはしない」
(お前を家族から引き離してしまった事には後悔をいているが…)
「んっ……、く……ぷ…すりー…」
子供の口から小さな、おそらく男の名を呼んでいるのだろう。声が漏れると、同時に先程からずっと握りしめ続けているマントを軽く引っ張った。
男はそんな幼子の様子に自然と口元を綻ばせる。
「良い夢を…ダレン」
子供の髪に、愛おしそうにキスを落としながら男はもう一度、優しい眼差しを浮かべたのだった。
コメント
ついにやってしまいました!!ダレン・シャン!初のクレダレなのですが…自分の文才に凹みます。もう少し感情とか心情とか入れたいと思いながらも今の私ではここまでしか書けませんでした。この義理親子大好きなのですがもうボロボロです。vタイトルも散々迷ったあげく「温もり」…タイトルセンスが欲しいな。
ではでは、最後まで読んで下さってありがとうございます。
BACK